5194 相模ゴム工業 ポリウレタンコンドームのパイオニア レポートby相川伸夫
【サガミオリジナル】―相模ゴム工業が日本で初めて発売した『ゴムではない』ポリウレタン製のコンドームシリーズは1998年の発売以来いまだに品薄が続くほどの大人気シリーズです!
コンドームは避妊道具であると共に性病予防に有効であることから、性交時の着用は世界的にも強く推奨されています。
今回は中々踏み込みづらい『性』と真剣に向き合って事業展開をしている相模ゴム工業について以下のポイントに沿ってレポートします。
・相模ゴム工業とポリウレタンコンドーム
・ポリウレタンコンドームの市場と拡がり
・マレーシア工場での増産計画
・他社製コンドームとの違い
・今後の展望について
◆相模ゴム工業とポリウレタンコンドーム
日本で初めて(1934年)ラテックス製のコンドームの製品化に成功し、現在ポリウレタン製のコンドームでは世界TOP
創業者はなんと女性であり、この方がコンドーム開発の旗を振ったのです。
現在は東証二部上場企業で、報告セグメントに対して売上の8割、利益では9割がヘルスケア事業(ほぼコンドーム)というほぼ単一セグメントの企業です。
本社に隣接している厚木工場ではラテックス系のコンドームを製造しており、マレーシア工場ではポリウレタン製のコンドームで同社の看板であり稼ぎ頭の『サガミオリジナル』が生産されています。
有価証券報告書の連結従業員数を見てもマレーシア工場に全体の90%近くの人員配置がされていることからその注力の強さが伝わってきます。
では、ポリウレタン製コンドームとは何なのか?
自然な装用感に大きく影響する『薄さ』をラテックスで追及するには素材そのものの強度も不足していました。
ラテックスの3倍以上強度を持つポリウレタン素材によって『サガミオリジナル』は完成しました。実に34年もの開発期間を費やしたそうです。
ラテックス(天然ゴム)製コンドームを日本で初めて同社が製造販売して以来、実に64年後の大革命でした。
ポリウレタンコンドームならゴムアレルギーを持つ方でも問題なく使えます。
ラテックス製コンドームに対するアレルギー(天然ゴムに対して)を持つのは世界人口の約1%とも言われておりこれは大変深刻な問題です。
また、日々ゴム手袋をはめる医療従事者では天然ゴムアレルギーの方は15%程とも言われており、日本でのラテックスアレルギー患者数は3%にのぼるのではないか?という人もいます。そうしたアレルギーの方にもラテックス以外でのコンドームが求められていました。
しかし、消費者の最大のニーズはポリウレタンの強度によって実現した薄さ×素材による滑らかな肌触りによる優れた装用感です。
世界中で使われているコンドームの99%以上はラテックス製であり、ポリウレタン製コンドームの普及率は1%以下でしかありません。
コンドームの消費量は避妊と性病予防を目的に世界で成長しており、特に中国でコンドーム利用がさらにオープンになれば、2015年に18億ドルだった市場規模は、2024年までに2倍以上に拡大すると、調査会社トランスパレンシー・マーケット・リサーチ社は予測しているそうです。
また、別の記事で中国市場では、年間110億個ものコンドームが消費され、毎年15%以上で成長をしているとも紹介されています。
逆に日本では年々少子化が叫ばれ、夫婦のセックスレスの問題がよく世間で話題になるように縮小傾向が続いています。
世界的なコンドームの消費増加の恩恵を大きく受けるのは安価な値段で手に入るラテックスコンドームになるでしょう。
それはつまり、こうも言えます。
世界中の大手メーカーの増産によって、ラテックスコンドームの価格競争は一層激しくなるということです。
では、ポリウレタンコンドームはどうなのか?
◆ポリウレタンコンドームの市場
先ほど、世界的な需要増加の影響を受けるのはラテックスだと説明しました。
それでは、ポリウレタンコンドームを求めているのは誰なのでしょうか?
2013年に発売した『サガミオリジナル0.01』と業務用のラテックスコンドームの一個当たりの価格差は20倍以上にもなります。
日本人からすると高めではありますが、別に買えない訳ではありません
新興国の一般の方には高級コンドームになるので、特別な日に使うくらい。富裕層なら日常使用も出来るでしょう。
また、海外の平均的なラテックスコンドームの厚さは0.07ミリという調査結果がありますが、品質を十分に保ったまま薄さを0.01ミリ台まで極薄化させることに相模ゴムは成功させました。
つまり、サガミオリジナルとはハイエンド向け商品戦略であり、―日本人とアジアの富裕層―がメインのお客様です。
次に、『サガミオリジナル』の販売広告を目にしたことがあるでしょうか?
相模ゴム工業はコンドーム着用率の向上のためのイベントを精力的に推進しているので、そちらを知っている方は多少いると思いますが、自社製品の販促PR活動には全く資本を投入していません。
その理由は至って単純です。
なぜなら、広告を出さなくても売り切れてしまうからです。
現状『サガミオリジナル』は主要都市の、それも比較的販売量の多い駅前のドラッグストアやドン・キホーテなどにしか置いていないのです。
地方にお住まいの方々が購入するにはインターネットで購入するより他ありません。
もっとマレーシア工場で作れないのかというと、現在も限界水準での生産を続けているので不可能なのです。
生産体系は3直4交代で回っているとのことです。
※↑は3直4交代でのシフトの組み方の一例であり、実際のシフトの紹介ではありません
上記の一例のように設備のトラブルや点検等以外の時間はサガミオリジナルが生産され続けています。
それほどまでに売れるようになったのは中国の『爆買い―インバウンド』の影響も大きいようです。
近年、中国産コンドームの粗悪な品質(穴あき、工業油付着)によって避妊が失敗したり、感染症に罹患してしまったなどのニュースが度々中国やその製品が輸出された国で話題になりました。
これと時期を同じくして、日本旅行雑誌のお土産リストに『サガミオリジナル』が紹介されたことが同社の商品人気に拍車を掛けました。
特に0.01が発売したタイミングでは『幸福の0.01ミリ』⇒この『幸福の…』というキャッチフレーズが特に中国観光客に好まれ、さらに世界最薄のコンドームとしての話題性もあって生産が追い付かないことから一時販売を見合わせる事態にまでなりました。
ちなみに『サガミオリジナル』の薄さの歴史は以下のようになっています。
⇒未出荷品の中に不良品が見つかったことで自主回収(実被害は報告無し)
⇒生産&検査体制を厳格化(この時の反省が今の相模を創った)
・2000年に再販売『ゴムじゃないコンドームサガミオリジナル』
・2005年『サガミオリジナル0.02』が発売!
⇒オカモトが水系ポリウレタンコンドーム『オカモトゼロツー』で2009年発売開始
・2013年『サガミオリジナル0.01』発売開始!
⇒オカモトが水系ポリウレタンコンドーム『オカモトゼロワン』を2015年発売開始
⇒中国メーカーが水系ポリウレタンコンドーム『中川001』を2017年中国で発売開始
2009年より、オカモトもポリウレタンコンドーム市場に参入を果たしました。が、
・販売価格が相模よりも高いこと
・オカモトの市場参入から10年近い月日が経っているにも関わらず、サガミオリジナルの売れ行きが落ちるどころか伸びている
以上の事からもオカモトは競合他社というよりはポリウレタンコンドーム市場のすそ野を拡げる同志というポジションの方がしっくりくるようです。
『サガミオリジナル』は、国内コンビニエンスストアはおろか地方のドラッグストアにも置けていない現状(供給不足)であり、国外の潜在ニーズから考えても成長余地は大きいと考え、この度の大型設備投資を決めたとのことでした。
◆マレーシア工場の増産計画
・平成28年10月⇒⇒⇒平成30年4月完了予定
生産能力50%増加を目的として40億もの巨額投資を現在進行中です。
これに関する具体的な償却期間はまだ開示されていないので不明です。
同社に話を伺ったところ現在は人材採用&人材育成に力を入れているとのことです。
平成29年3月期の有価証券報告書でマレーシア工場人員574名だったのに対し、50%の増産をするためには200名強の人員採用が必要とのことでした。
そんなにもの人員が必要な理由は製品が『薄すぎるから』とのことには驚きを隠せませんでした。
<無色透明・極薄・破損注意>のコンドームの検査は全自動化ができないから、人でやるのが一番とのことのようです。
また、0.02ミリでも相模ゴム工業では全数検査+抜き取り破壊検査をしていますが、0.01ではさらに二種類の抜き取り破壊検査とさらに短くロットを時間で区切って検査をしています。
生産自体はほぼ全自動でできるらしいのですが、
・検査員の熟練度が上がらないと検査工程が間に合わない=50%の増産能力が発揮できない
・0.01ミリの増産では抜き取り破壊検査が増える⇒歩留まり悪化(0.02⇒0.01の価格差ほどのロスではない)
ということがあるらしく、4月から設備側の準備ができていてもフル稼働まではまだしばらくかかるかもしれません。
また、マレーシアで生産したコンドームは船便で日本に届けられ、その後各ドラッグストアなどへ配送されると思われますが、少なくとも数字として出るまで2か月程度タイムラグがあると予想されます。
現在の販売戦略では、増産分は国内のドラッグストア(地方店や品切れ店舗)に優先して回すようです
ところで…
〇なぜ『サガミオリジナル』だけマレーシアで作っているのか?
ポリウレタンコンドームの製造法は液体に沈めてゆっくり上げる自然の重力を利用したものであり、花粉が付着すると花粉孔という不良品が出来てしまうとのことです。
また、生産工程は高熱環境作業なので熱帯気候の方が暖房代が安上がりで、金型での生産はコンドームが薄すぎるため不可能なので人の力がキーになります。
また国として安定しており過ごしやすい風土であり、親日である。
つまり、マレーシアでポリウレタンコンドームの生産をやるメリットは…
①土地が広い
②人件費が安い
③地震がない(生産に大きく影響や良品率向上)
④空気がきれい(夕方にスコール⇒花粉や埃が落ちる⇒良品率向上)
⑤気候が安定(暖かい⇒暖房代節約)
特に①~④はとてもポイントになるのではないでしょうか。
マレーシアはコンドームの生産にも大変優れた立地のようです(笑)
◆他社製コンドームとの違いについて
同社以外にポリウレタンコンドームを現在製造販売しているのは…
・オカモト
・蘭州科天健康科技(中国)
の二社だけであり、この二社と『サガミオリジナル』の製法が違います。
相模ゴム工業は『ポリウレタン製』コンドームと謳っているのに対し、他社は『水系ポリウレタン製』コンドームという表現の違いがあります。
では、何が違うのか?
同社に確認した結果、一番単純かつ簡単な比べ方はそれぞれのコンドームを強く持って【思いっきり引っ張る】こと。
もちろん仮にこれで切れたとしても通常使用の強度は十分に保証されているので問題ありません。
これは製法の違いからくる強度の差であり、それほど強靭に出来ているというから驚きです。
その理由を詳しく知りたい方は相模ゴムとオカモトの特許を調べてみるとなんとなく掴めるかと思います(長くなるので割愛)
また水系ポリウレタンは【熱硬化性】であり、サガミは【熱可塑性】の特性があるとのこと。これは室温、つまり体温以下の温度でそれぞれを比べると相模のがやや硬く感じますが人肌まで温まると柔らかくなり、両者に違いはほぼなくなるとの説明でした。最後は個人の好みに分かれる所だと思います。
◆今後の展望
今回の増産によって国内の多くのドラッグストアにも行き渡るようになり、今後の売り上げ・利益が伸びる事が期待されます。
懸念事項として気になるのは、先ほどの中国製の『中川001』に対してをどう判断するべきか?になると思います。
しかし、これについてを伺ったところ、同社としては中国産ポリウレタンコンドーム『中川001』の製造・販売に関してホッとしているという声を聴けました。
ポリウレタンの市場自体はまだまだ小さく、現時点では競合というよりは中国資本参入のおかげでポリウレタンコンドームの認知が高まることは、同社にとってもプラスになるとの考えがあるようです。
とはいえ、数年後には競合になる恐れはあるので、中国の動向はチェックしておいた方がいいでしょう。
また、2018年4月3日のリリースのあった『入り個数変更と標準小売価格改定のお知らせ』
これは多くの店頭に陳列するための布石であり、国内および海外に向けての販売網の拡大はまだまだこれからです!!
増産効果がフルで発揮できれば2020年3月期には売上は70億円強、営業利益は25億円ほどは行ける可能性は十分にあるでしょう。東南アジアでも日本同様コンドームに薄さを求める傾向があるようで、さらに増産ができると判断して投資をしていくのであれば期待が膨らみますね!
今後とも性と向き合い、ぜひ日本を引っ張って元気にしてほしいと思います。
◆相模ゴム工業(5194)の投資指標
※2018/5/9現在
終値 1800円
時価総額 197億円
※18年3月期会社予想
売上 59.0億円
営業利益 17.0億円
経常利益 16.0億円
純利益 12.0億円
配当 10.0 円
配当利回 0.56%
PER 16.41
PBR 4.22
ROE 21.4%
自己資本比率42.6%
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