4414 フレクト ビットバレー渦中に立ち上がり荒波乗り越え突き進む by宇佐見

2022年8月24日

東京勉強会 8月28日(日) に黒川社長に登壇いただきます!

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4414 フレクト レポート_20220809

沿革

1.ビットバレーの渦中で学生起業 2000~2005年

同社の前身となるのは、創業者であり代表取締役CEOである、黒川幸治氏が大学在学中に立ち上げた会社。黒川氏は2000年頃の当時、渋谷界隈で勃興していた「ビットバレー」内コミュニティに参加。そこで先輩起業家に憧れITの将来性に期待を持ち、一念発起して会社を立ち上げたのが原点となる。大学のサークルや部活動のコミュニティサービスを作る事業を興したが思うような運営に至らず、そこで、システム開発のビジネスに切り替えることに。2005年には取締役の退任をきっかけに新たに立ち上げたのが、フレクト社となる。

■代表、黒川幸治氏

出所:同社HP

2.国内では先進的だったアジャイル型開発組織を立ち上げ 2005~2009年

心機一転として立ち上がった同社が手掛けることになったのは、当時の社員を通じて獲得したリクルート社の新たな業務であった。2000年半ば頃、当時インターネットの普及が爆発的な勢いとなる中、競合他社に負けないクイックな開発を実現したいとのリクルート社からの依頼。世界ではインターネット普及速度に開発速度を適応させるべく、2001年に「アジャイルソフトウェア開発宣言」が出された直後で、国内ではまだほぼこうした取り組みはみられなかった中、リクルートと共にチームを組み、アジャイル型開発組織(※1)を立ち上げた。このチームで手掛けることになったのがBtoC向けのweb・モバイルアプリケーション開発の事業。業界内で先進的な取り組みであったこの業務に、同社は邁進していくこととなる。 

※1 小単位で実装とテストを繰り返して進めていく開発手法。大きな単位でシステムを区切る手法と比べて短期間に実装していくことができる。

3.IT最先端のクラウド分野へ切り替え 2009~2015年

リクルート社と組み取り組んでいたweb・モバイルアプリケーション開発であったが、リーマンショックを受けて受注が減少。システム開発業者としてITのトレンドを追いかけ価値を磨き続けなければ生き残れない、と悟り、更なる付加価値向上の必要性を感じて新たな事業を模索する。その中で社内で活用していたSalesforceやAmazon Web Services等のクラウドサービスの将来性を一ユーザーとして実感していたこともあり、2009年、先端ITであるクラウドビジネスに舵を切り、具体的にはクラウド提供のグローバル企業であるSalesforce、Heroku、Amazon Web Services等と順次パートナー契約(※2)を締結。このように業界の変容を素早く察知し事業を柔軟に変化させ、取り組むべき課題が定まればそれに全力で携わる、こうした過程を経ながら同社は力を蓄えていく。2019年には日本企業では初めてSalesforceグローバルでの「Salesforce Partner Innovation Award」を受賞。クラウド先端技術でのDX事例をグローバルでも認められていく。

※2 パートナー契約:Salesforce等のクラウドサービスをグローバルに展開を進める企業が、各国内へ事業を広める際に採用している仕組み。例えば、Salesforceとコンサルティングパートナー契約を締結した企業は、顧客企業に対して、Salesforce 製品の導入・開発サービスを提供し、顧客企業における事業のクラウド化をサポートする。新規導入・開発における多くの場合、顧客企業からSalesforceに対して引き合いがあり、それをSalesforce側が各パートナー企業の中から適切な企業を選び、案件として共同提案を依頼する。Salesforceは顧客企業とライセンス契約を締結し、パートナー企業は顧客企業と開発等のプロフェッショナルサービスの契約を締結して実質的な構築及びその後のサポートを直接行う。ライセンス導入後は各パートナー企業が独自に営業を行う。

4.オリジナルサービスCariot提供開始、業容拡大 2016年~現在

グローバルクラウド企業のパートナーとして、顧客企業が直面するそれぞれの課題に対してクラウドシステムの構築に取り組む中、同社は、商用車を扱うMobility業界においてクルマがインターネットにつながっていないことによる共通的な課題が存在していることを認識する。そこで、それまでに蓄積してきたMobility分野に関する開発資産を活用して2016年、オリジナルの新規事業としてCariotをリリース、現在売上高の約1割を担う事業となっている。また、グローバルクラウド企業の先端テクノロジーを活用して2017年には画像診断・音声認識・言語処理等のAIサービス開発、2020年には企業オリジナルのカスタムできるオンラインビデオサービス開発を提供開始。クラウド先端テクノロジーを基に実績を積み重ねていった同社は更なる成長を目指して2021年12月マザーズへ上場(現在グロース)。2027年にプライムへ市場変更の目標を掲げ、事業を進めている。


出所:同社資料

特徴・強み

同社が手掛けるのは企業に対してクラウドシステムを構築する事業であり、クラウド先端テクノロジーの高い専門性を強みとすることから、実際業務の詳細までを把握、理解することはなかなか難しい面がある。その上で同社の強みを測る材料として、顧客企業の種類、過去の受賞歴から確認可能な客観的に評価されているポイント、そして、同社の人材に対する捉え方、の3点に絞って確認する。

1.「攻めのDX」を大手企業中心に提供

同社が現在、提供しているサービスはクラウドを活用したシステム構築、すなわち顧客企業のDXサポート。しかし「DX」といっても捉えどころが難しく着手に戸惑う企業が国内ではまだまだ大半である中、同社はDXを「守り」と「攻め」に分類し「攻め」のDX構築を提供することに特化している。例えば、社内業務を効率化させるためアナログからデジタルへの置き換えなどの業務の効率化や保守的なものは「守り」。一方、新しい顧客体験を創出しダイレクトに収益向上やユーザーのエンゲージメント向上に結びつくDXが「攻め」。企業の競争力を獲得するためにはこの「攻め」のDXが必要となり、これこそがDXの本質であると当社は考えている。よって必然的に顧客は、先進的な取り組みをチャレンジングに実行できる大手企業が大半を占めており現在約9割が大手企業となっている(ここでの大手企業の定義:日経225、日経400、日経500のいずれかに採用されている企業、または当該企業のグループ企業や当該企業に準ずる売上1,000億円以上規模の企業)。


出所:同社資料

2.最先端エッジの利いたサービスを提供

同社がポリシーとしているのは、顧客から言われたことを単にこなす、に留まらず、顧客そしてその先にあるユーザーのあるべき姿を描き、クラウド先端テクノロジーでそのモノ作りまで一気通貫でサービスを提供すること。同社の高いサービス品質は、セールスフォース・ジャパンが毎年主催する優れたパートナーに贈る賞を複数回受賞していることや、2019年には日本企業として初めて、SalesforceグローバルでInnovation Awardを受賞するなど、客観的な評価実績が証明している。

■これまでの受賞歴

出所:同社資料

Salesforce Partner Awardは現在国内600 社以上のパートナー企業の中から毎年選出されており、最近ではアクセンチュアやテラスカイ(東証プライム3915)なども受賞者に名を連ねている。同社が受賞した各賞はそれぞれAI、Multicloud、IoTといったエッジの利いたクラウド先端テクノロジー分野での実績が評価されたものであり、受賞が信頼となってこうした分野での案件が依頼されることも増えているという。

3.求めているのは10年先に業界で活躍できている人材

入社社員は、クラウドシステムの未経験者が9割であるが、採用の際に重視しているのはクラウドシステム経験の有無よりも、コンピューターサイエンス・情報処理の基礎力が備わっているかどうか。基礎力があれば応用としてのクラウドシステムがキャッチアップできる。中途社員教育は3~4人のメンバーで構成される教育推進専門チームがリードして、およそ1か月をかけて現場で活躍できるレベルにまで立ち上げを支援する。風土として社内では勉強会を頻回に開催したり、社内独自のナレッジもeラーニングコンテンツを充足させ社員には持続的な学びを促す。必要としている人材は10年後も業界で活躍できている人材。技術革新が速いクラウド業界において、スキルが停滞したままでいるとその価値はすぐに陳腐化してしまう、そうならないためにも、個人と組織とで、持続的に学んでいく必要があると考えている。

離職率については業界平均である12~3%と同程度。自ら事業を興したい、事業会社側へ、クラウドプラットフォーム側へ立場を変えて取り組んでみたい、といったことが主な転職理由となっている。

人材は同社にとって最も大切な資産であり、有能人材の確保は成長には欠かせない要素となってくる。リモートワークも当然可としており採用域は全国各地、働き方の多様性も取り入れているという。

■エンジニア等従業員数

出所:同社資料

事業内容・優位性

同社が展開する事業分野は2つ。グローバルクラウド企業と組んでのクラウドインテグレーションサービス、同社独自サービスであるMobilityサービスのCariotとなる。

1.クラウドインテグレーションサービス

顧客企業の収益向上やユーザーのエンゲージメント向上へ直結するためのDX支援事業。グローバルクラウド各社と共同で携わる。顧客企業より依頼を受けたグローバルクラウド各社から同社が引き合いを受け、グローバルクラウド企業が顧客企業とライセンス締結を交わし、その後は同社が顧客企業と直接開発等のプロフェッショナルサービスの契約を交わし、コミュニケーションを取りながら開発を進めて行く形。直近2021年4月に契約締結したTableauを含め、同社とパートナーシップをもつグローバルクラウド企業は現在5社となっている。

顧客の要件に対して、クラウドシステムの長所短所を理解して、適材適所での活用をすることが求められ、マルチクラウドでの開発を行っている。開発するDXサービスの代表的なものとしては、IoT、Mobilityサービス、AIサービス、企業間のECサービス、コミュニティサービス、等。IoTサービスだけを手掛けるのではなく、「攻め」のDXに必要なサービスを網羅的に手掛けることができるマルチクラウドの高い技術力が競合に対する優位性となっている。


出所:同社資料

DXサービスの企画・デザインからクラウドシステムを活用した開発まで一気通貫でやっているがゆえに納期までのプロジェクトの平均期間が約3ヵ月と短期で回せており、世の中のトレンド変化に応じた顧客からのフィードバックを素早くサービスに適応させることができる。

2.Cariotサービス

同社はじめてのオリジナルサービスであるCariot。クラウドインテグレーションサービスが顧客企業ごとにカスタムするサービスであるのに対して、業界の共通課題に対して製品ベースでソリューションを提供するサービスとなる。クルマと企業をつなぐ「ドライバー働き方改革クラウド」として、「物流」「訪問サービス」「営業」等で利用する車のリアルタイム情報活用と管理業務のDXにより、現場の業務効率化と安心・安全を提供するクラウドサービスとなっている。

販売形態は直販ないし代理店を通じて契約を締結、年間前払いでSaaSライセンスを提供。サービスとしては、車載デバイスを取り付ける、またはスマホアプリを起動するだけで、クルマのデータをかんたん、リアルタイムに取得・可視化・活用でき、車のリアルタイム動態管理、危険運転察知、到着時間予測等。クルマに関するコンプライアンス管理業務の強化と合わせて現場業務の効率化を支援する。


出所:同社資料

ドライバー不足を背景とした物流危機の問題や、2024年には「働き方改革」に基づき、自動車運転業務に対して「時間外労働時間の年間960時間上限規制」の適用が予定されており、今まさに本腰を入れてドライバーの働き方を見直さなければいけないタイミングであり、こうした中で同サービスが生きてくると思われる。

業績

2021年3月期はコロナの影響によって顧客企業がDXへの投資を控えたことにより、減収減益となった。2022年3月期には売上高、営業利益は共に回復しており、今後3か年の年間売上高成長率は30%を目指している。2020年にパートナー契約を結んだMuleSoftは国内で多くの実績を持つベンダーとしての希少性が高く、単価の引き上げに成功しているとのこと。これにより、コロナにより一旦凹んだ2021年3月期を除いて、営業利益率も上昇。直近は大手企業からのDX需要が益々旺盛になってきているとのこと。

■売上高及び営業利益率

出所:同社開示情報を元にリンクスリサーチ作成

KPI

1.クラウドインテグレーションサービス

契約顧客数は大手企業が順調に増加してきている。ARPAに関してはコロナの影響に伴う顧客の支出控えにより一時的に下がった後、2022年3月期1Q以降は、契約顧客数を増やしながら顧客当たりの売上高も同時に伸ばすフェーズに入っており、コロナからの回復を経て長期で伸長のステージにあるとみられる。

■四半期の契約顧客数

■ARPA(顧客当たりの四半期平均売上高)

出所:同社資料

2.Cariotサービス

2021年3月期は、コロナ禍の影響によってビジネスが停滞したことで契約数が減少トレンドに入ったが、2022年3月期に入り回復を見せている。ただしARRにおいては顧客企業において原油高に伴いコスト削減の傾向があり、成長トレンドまでは戻っていない。クラウドインテグレーションサービスと異なりCartiotサービスは、中小企業がメインターゲット層となる。

■契約数

■ARR

出所:同社資料

リスクの検討

1.マーケットの動向

国内企業を対象にクラウドシステム構築を提供するビジネスを手掛ける同社にとって、今のビジネスモデルを推し進める限りにおいて、対象とするマーケットは国内に絞られる。要となる「DX」化は、2004年にスウェーデンの大学教授が提唱したのをきっかけに世界拡大が始まり、日本では2018年に経済産業省が「DXレポート」を発表したことをきっかけに注目度が一気に高まったとも言われるが、国内各企業におけるDX導入の動向が、当面の将来にわたる同社の事業及び業績に影響を及ぼしていくことが明らか。国内DXマーケット予測を毎年更新している、富士キメラ総研の最新の調査によれば下表のとおり、2030年度には2020年度の約3.8倍、5兆を越えるまでにDXマーケットは成長している見通しとされる。調査で対象としているいずれの業界もDXへの投資金額は増えると予測する中、交通/運輸においてはおよそ6倍伸長し2030年には各業種中最大金額が投入されているとの見通しとなっており、これに基づけば、Cariotサービスの伸長にも期待が持てる。

■DXの国内市場(投資金額)

出所:富士キメラ総研調査結果を元にリンクスリサーチ作成

2. 競合の動向

同社と同じく、Salesforce、Amazon Web Services等とパートナー提携をしている国内企業は複数存在する。中でも大手SIベンダー、クラウド専業インテグレータ―でSalesforce Partner Awardを複数回受賞するなど実績を評価されている企業もおり、同社の強敵と捉えがち。しかしながら例えば、同社がクラウド専業インテグレーターと過去にコンペでバッティングしたことはほぼなく、同じビジネスでも得意とする領域によって土俵が異なるのが実際のところとなっている。同社は大手企業向けに、サービスの企画・デザイン、マルチクラウドの高い技術力によって「攻め」のDXを一気通貫で手掛けられるユニークなポジショニングをとっている。
出所:同社資料

上表は同社が認識している競合領域である。「攻めのDX」(右軸)領域では例えば、UI/UXデザインを専業とする「デザインファーム」が該当する。また、「ベンチャー系DXベンダー」は中小企業を主に顧客としているプレーヤーが属するカテゴリーとなる。

将来的に競合になり得るかの観点で考えた場合、「守りのDX」(左軸)は業務要件に従い品質高く運用していくことが求められ、サービスを企画、デザインし、クラウド先端テクノロジーで開発を行う「攻めのDX」へ移動するにはスタンスや要求技術の転換が求められるため容易ではないと考えられる。可能性としてより高いのは「攻めのDX」に属すデザインファームやベンチャー系DXベンダーが、開発体制を強化していくことで、同社が属する「大手企業」(上軸)領域へやってくるというシナリオだという。

                                                            以上

2022年8月24日成長株投資, 銘柄研究所

Posted by usamiseira