3989 シェアリングテクノロジー株式会社 - 3日連続のストップ安は過剰反応 by yamamoto

2019年8月26日

最初に断っておきますが、私はダイヤモンドフィナンシャルリサーチにて投資助言という仕事をしておりますが、同社は私の助言ポートフォリオ銘柄ではありません。ですので中立的な立場で書きます。

ZAi Onlineは一般に公開された情報(7/31公開)ですから、そこで私が書いた記事は以下の通りです。

3連続ストップ安 2019年8月19日現在

本日2019年8月19日の同社株の引け値は365円です。3営業日前は645円でした。私の記事が公開されたのは7/31です。

同社株は2年前から1/10近くになってしまいましたが、このサイト「みんなの運用会議」でも安田さんの記事として紹介されていました。しかし、その頃とは状況が変わってしまい、創業者は今年の前半に会社を離れました。経営方針も大きく変わりました。全方位のなんでもやるという無節操だった昔。コア事業[暮らしのお困りごと事業]に回帰するというオーソドックスな今に変わったのでした。会社側は経営方針の転換を表に出さないため、個別の訪問取材の時に、本音を聞き出す形になってしまいました。機関投資家の多くは今年の前半の段階で中期計画が事実上なくなったことを知っていたのです。中期計画は白紙撤回するのが難しいものです。なぜならば、撤回して何もなければ、投資家は失望するからです。それで、代わりの中計を出すタイミングを会社側が探っているうちに今回の下方修正になったと私は感じています。公開されたZAi Onlineの記事は、本業が儲からない収益構造になっていて、致命的な欠陥を有するうビジネスモデルであることに言及しつつも、暖かく見守ろうという態度で、彼らの強化しているサイト「生活110番」の認知度向上の一助になればという思いで、「生活110番」を応援してねという気持ちで記事を書いたのでした。

投資会社が投資をやめるとどうなるのか

同社を取材した投資家であれば、今期の同社の利益のほとんどが過去に買収した企業の値上がり益(売却益)であることも知っていました。また、コア事業「暮らしのお困りごと事業」が収益を産んでいいないことも十分に知っていたはずです。ノンコア事業の投資事業の収益は一時的なもので、将来の理論株価に参入することができません。よって、投資事業から事実上、撤退した同社の今後の目標株価は、本業であるコア事業の儲けが基準になります。

ところがコア事業「暮らしのお困りごと事業」が利益がほとんどないものですから、短期的な業績からのバリューエションはできません。3年後、5年後どうなるのかという見通し以外に同社のコア事業は評価できないのです。

私が指摘した同社のビジネスモデル上の致命的な欠陥とは、コア事業の限界利益率の低さ(というよりは本質的には営業利益率の低さ)でした。会社説明会資料には5割と書かれていますが、常識的に考えるとこれは鵜呑みにできないと思っています。例えば、コールセンターの人員は同社のビジネスモデルでは変動費です。売上の10%とありますが、例えば、2020/9の期待ですが、私の予想50億円ぐらいに大幅にコア事業売上を伸ばした時に、150人のコールセンター人員ですが、ちょっと150人では足りない計算。若手中心で年収福利厚生入れて400万円程度という想定で作ると利益が8億円ぐらい出たら上々ですね、という計算を私はしているわけです。これはベストケースです。200人用意して先行投資しないと来年、再来年の絵がかけません。同社は社員を使い捨てと見ている訳ではないでしょうが、コア事業回帰ならば、離職率の高さはなんとかしなければならないでしょう。

同社のコールセンター業務は、アルバイトや契約社員では無理だと私は考えています。同社のコールセンターは単なる相談窓口ではなくて、顧客からの電話を切らせずに約定を促してナンボの世界です。とても付加価値が高い顧客とのコンタクト部門なのです。ここの年収が福利厚生を入れてこの年収では持続可能ではありません。そうなるとコールセンター売上人件費比率は10%というのはベストシナリオで、そうはいかないのです。離職率が高いことがネックになっています。つまりリクルーティング費用が相応にかかる。これを固定費と見ることはできません。コールセンター費用はそうなるとリクルーティングコストを含めれば500万円/社員を超えるわけですから、15-20%の想定がアナリストの置く想定です。ここが楽観的な企業側の想定との違いです。さらに、グーグル広告費用は売上対比40%であり、限界利益率は、諸々の変動費、オフィスの電気代や諸々の諸費用などを入れると企業側の50%ではなくて、40%かそれ以下と見なすのがフェアな置き方です。

ここは会社からさらなる説明があればと願っております。私の想定が必要以上に厳しすぎるかもしれないからです。

生活110番サイトの認知度は上がるのか

これは、ウェブの訪問数を見ればかなり上がっているのです。効果は出ています。投資家の希望は、グーグル広告をかけないで自社サイトから顧客を誘導することでここはブレがないのです。この戦略は、非常に説得力のあるものです。企業側は自社サイトのビジネスとなれば、限界利益率が90%も可能であるとのことです。これは楽観ケースであり、70%程度と見なければならないでしょう。人件費率は毎年上昇してしまいますし、サイトを維持する固定費はライターおよそ200人の人員規模ですから、ここを削るとサイトの認知度は下がります。

問題は、生活110番からのビジネスが現状5%に過ぎないという現実です。

それでは皆様の常識に問います。

あるサイト(なんでもよい)が世間での認知度を高めようとしています。そのサイトの認知は記事の本数に比例して大きく飛躍するでしょうか。例えば、このサイト「みんなの運用会議」のページは認知度はほとんどないサイトです。私が毎日二本のコラムを書けば、投資家にとって認知度が高いサイトになるでしょうか。ならないでしょう。企業が何億円、何十億円と広告費を使う中で、私が記事を書いても、全く世の中の趨勢に影響はありません。私は無名のままですし、このサイトの認知度は低いままでしょう。これが現実です。

ですから質問への解答は「そんなわけないよね」でしょう。

地道な活動でジワリと生活110番のサイトの認知度は広がるでしょうが、飛躍的に広がるなどと現実をよくわかっている証券アナリストは想定はしないのです。今の売上比率5%が10%なればすごいよね、ぐらいには思うでしょうが、5%が20%にはなるぞ、と何を根拠に主張できるでしょうか。

困りごとの約定は、蜂がいる、鍵をなくした、水が止まらないなどの緊急性を伴うものです。だから、成功報酬モデルが機能しているのです。それを、一般の方々に、鍵をなくしたらこのサイト、おお、「生活110番」だよね、となるわけはありません。想定するものが違えば、例えば、旅行やホテルや電車の予約であれば、サイトを登録する意味がありますが、勃発的な緊急事態サイトにサイト登録という考えはまずないからです。これは常識に凝り固まった証券アナリストのつまらない前提です。でも、ここが最も大切なポイントです。突発的事件をビジネスにしている同社が、計画的な消費者の行動を期待しているとすれば、甘いと言わざるを得ません。具体的な専門業者であれば別です。葬儀ならば長谷川と刷り込むことができるでしょう。ところが同社は、まず、ここに電話してというアピールですから、具体的な事業者を表に出すことができないのです。固有名詞がない。グーグルからの呪縛から逃れるのはそう簡単なことではないのです。少なくとも証券アナリストは甘い前提を置かないはずです。個人投資家レベルであれば「会社がそう言っている」で、それを信じることはあるのでしょうが、プロのアナリストは常識的に数字を置きますから、あり得ないことはあり得ないと判断してしまうのです。

それでも割安

来期に投資益が入ってくるかどうかはわかりません。8割程度の割合で利益は計上されるでしょうが、でも、それが一過性である限り、バリュエーションにはほとんど無関係です。(この意味がわからない人は株式投資を自分で判断してはいけません。ひふみ投信に任せる方がよいでしょう。)

限界利益率40%あるいは35%の企業があって、ただし、売上は2割程度は伸びる可能性がある。その程度の前提でもアップサイドがあるかどうかを判断すべきです。2022/9頃にはベストシナリオで営業益15億円程度と想定します。この前提に立つならば買いの評価となります。不確定な要素は多いのです。グーグルからの脱却にこだわるよりも、コールセンターの離職率や年収のアップ、そして、契約をクロージングに持っていくコールセンター人員の専門性を強化することが求められていると思います。

中計はどうなるのか

わかりません。ただし、すでに亡霊となった中計は、9月本決算の発表とともに新規の中期計画に置き換わるでしょう。その頃、株価は今よりも高くなっているでしょう。コア事業に資源を集中して、失敗した企業はありません。経営の難易度は格段に容易くなっています。投資家の皆様におかれましては、過度に悲観する必要はなく、私のように、淡々と、数字で判断してください。現状の時価総額は67億円は低すぎるということはわかるはずです。過度に不人気になっているだけだと思います。

投資家に対する注意

限界利益率を想定すれば、固定費は一定で、上がらず、売上の増収分が限界利益だけ増益になると考える投資家が多数です。限界利益とは長期的な業績の予想には全く使いものにならない代物です。特に成長期の人件費を固定費に分類することは危険です。今回も企業側の資料に習って、限界利益率のことを私は書いていますが、実際は、売上と全部の費用の割合について考察しているのです。そこを間違わないで欲しいのです。

長期的には、変動費も固定費もありません。現に、ライターの200人のアルバイト代は、同社では固定費に分類されています。固定費、変動費という分け方は、短期の投資家、数ヶ月の投資には有効ですが、長期投資家には全く用のないものです。費用には費用しかない。これが固定か変動かをあえて分ければ、全て変動費、人件費も含めて企業の費用は全て変動費なのです。儲かれば使ってしまう。儲からないときは節約する。これが企業の実態です。投資家の勝手な判断で固定費と変動費を分けて増益の絵を書くことは長期の投資では最もやってはならないことの一つです。

筆者について

山本 潤 (やまもと じゅん)  

ダイヤモンドフィナンシャルリサーチ投資助言部にて投資判断者を務める。株の学校長期投資ゼミの講師。コロンビア大学大学院修了。哲学・工学・理学の3つの修士号取得。外資系投資顧問のファンドマネジャー歴20年。2018年よりDFR投資助言部。

日本株の成長株投資を得意としている。外資系投資顧問会社クレイ フィンレイ日本法人共同パートナーで日本株及びアジア株の運用などを経て投資教育の会社を設立。現在も年間200社前後の会社訪問と投資判断を行っている。


1997-2003年年金運用の時代は1,000億円を運用。


その後、2004年から2017年5月までの14年間、日本株ロング・ショート戦略ファンドマネジャー。月刊マネー誌『ダイヤモンドZAi』誌上の銘柄分析を10年以上続けている。


過去20年超の機関投資家としての運用戦績は年ベースで17勝4敗の勝率8割超(同期間の日経平均は、12勝9敗)。シンガポールの大先輩Kファンドマネジャーは40年間負けなし。彼の足元には及ばない。一方で、国内ライバルの20台の若手Sファンドマネジャーは今週35社を訪問。私は20以下で負けている。その分、経験が補ってくれることを神に祈る毎日。

2019年現在、DFR(ダイヤモンド・フィナンシャル。リサーチ)投資助言部において日本株ポートフォリオ22銘柄で投資判断の助言サービスを行っている。生涯一ファンドマネジャーを自負し毎営業日、訪問取材をし、顧客にポートフォリオを提供し、55才となった今も若手運用者と張り合っております! 中央大学の理工研究所数学科の博士課程に在籍中ですが、運用で忙しく数学の研究は全くできていない状況…ですが、本日、前期試験で指導担当教授から温情の単位を頂いてしまった。後期から数学しっかりやります!

2019年8月26日成長株投資の理論と分析手法, 銘柄研究所

Posted by 山本 潤