338A ZenmuTech アナリストレポート
独自の暗号化技術により高い堅牢性と低速回線でもストレスなく利用できる利便性を実現した同社の技術に注目。
11月22日(土)に東京勉強会に登壇していただきます
*会社WEBサイト
https://zenmutech.com/ir/indivisual/
企業概要
株式会社ZenmuTech(ゼンムテック)は、独自の暗号技術で企業の情報漏洩リスクを低減し、安全なデータ利活用を可能にするソリューションを提供する情報セキュリティ企業である。社会課題であるサイバー攻撃や端末紛失による機密情報流出に対し、同社はデータを無意味化する「秘密分散技術」と、データを復号せずに処理できる「秘密計算技術」を用いて解決を図る。
主力のPC向け情報漏洩対策ソフトウェアを導入することで、従来は高コストで動作が重かった仮想デスクトップ(VDI)等に頼っていたリモート業務を、安全性を保ったままオフラインでも快適に実施できるようになる。これにより顧客企業はセキュリティと業務効率の両立を実現し、端末盗難時の情報流出も防げるため、安心してDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進できる。
設立日:20140304
上場日:20250327
沿革
2014年3月に東京都で設立。2015年より秘密分散技術の事業化に着手し、2018年に秘密分散エンジンモジュール「ZENMU Engine」の提供を開始、産業技術総合研究所(産総研)との安全性評価の共同研究も開始した。2019年にはデータ分散型仮想デスクトップサービスを提供開始し、同年に秘密分散技術に関する産総研との共同論文が国際学会で最優秀論文賞を受賞。2021年に秘密計算データベースプラットフォーム「QueryAhead®」とPC向け仮想ドライブ製品「ZENMU Virtual Drive」を相次いでリリース。大手企業とのアライアンス構築や導入実績の積上げによって事業基盤を拡大し、2023年には産総研グループのAISoLスタートアップに認定される。2025年3月27日に東京証券取引所グロース市場へ株式上場を果たし、同年6月には創業社長の急逝を受け新体制へ移行した。
社長の経歴
現在の代表取締役社長CEOである阿部泰久は、国内外の大手IT企業(日本オラクル、SAPジャパン、AWSジャパン)で約20年にわたりマーケティング・営業の実績を積んだ後、2022年にZenmuTechへ参画した人物である。執行役員CMO(最高マーケティング責任者)として入社し、2022年5月に取締役CMOに就任。上場直後の2025年3月に専務取締役に昇格し、同年6月に創業者で前社長の田口善一の療養に伴い代表取締役に追加選任され社長業務を代行、後に正式に代表取締役社長CEOに就任した。大手ソフトウェア企業で培ったビジネス経験とネットワークを背景に、同社の事業拡大とグローバル展開を指揮している。
事業立ち上げの経緯
創業者の田口善一氏は、日本および外資系のIT企業でマーケティングと営業を経験後、M&A仲介業を含む複数の起業を経て2014年にZenmuTechを設立した人物である。当初はシンクライアント型の仮想デスクトップ関連サービスから事業を開始し、PCの安全活用に関する知見を蓄積する中で「セキュリティと利便性の両立」に着目していた。
2016年頃から独自の秘密分散方式「ZENMU-AONT」の研究開発に本格的に取り組み始め、2018年には産総研との共同研究を基に秘密計算技術にも着手した。2019年に秘密分散技術の論文が国際会議で表彰されると、政府主導の研究プロジェクトにも技術採択されるなど外部からの評価を得て、技術の社会実装に向けた追い風となった。こうした実績とオープンイノベーション戦略により資金・人材を呼び込み、事業を軌道に乗せていった。
事業内容(セグメント別)
同社の報告セグメントは「情報セキュリティ事業」の単一セグメントであり、自社開発した秘密分散技術・秘密計算技術を中核とするソフトウェア製品群を提供している。主要プロダクトは以下の3つ
①PC上のデータを無意味化して漏洩を防ぐ情報漏洩対策ソフト「ZENMU Virtual Drive」
②当社の秘密分散技術を他社の製品やアプリに組み込むためのソフトウェア開発キット「ZENMU Engine」
③機密データを秘匿化したまま計算処理できるプラットフォーム「QueryAhead®」
これらはいずれも企業の重要データを保護しつつ利活用するためのソリューションであり、セキュリティ水準の向上と業務効率化の両面で顧客に貢献するサービスを単一事業として展開している。
特徴・強み・競争力
ZenmuTechの技術的強みは、独自の秘密分散方式「ZENMU-AONT」が持つ高い堅牢性と高速な処理性能にある。この方式は分散片がすべて揃わないと元データを復元できない仕組みで、暗号強度が高いだけでなく処理速度にも優れる点で競合技術に対して比較優位性がある。実際、同社のソリューションは従来トレードオフ関係にあったセキュリティと利便性を両立し、低速回線やサーバー負荷に左右されずオフラインでも利用できる快適さを実現している。
自社開発のため海外製品に比べライセンス費用が割安で、導入企業は大幅なコスト削減が可能となる。秘密計算分野においても、産総研との共同研究による新技術(2台のコンピュータ構成で計算を高速化する手法)を「QueryAhead®」に実装し、ユーザー企業は暗号の専門知識がなくても機密データを共同活用できる点で差別化されている。
同社技術の独創性は高く評価されており、2019年には秘密分散技術に関する共同論文が情報セキュリティ国際会議で最優秀賞を受賞するなど実績もある。革新的な技術力とそれを活かしたソリューション開発力、さらに大企業や研究機関とのオープンイノベーションによる創造力が、同社の競争力の源泉となっている。
*ZENMU-AONTとは
重要なデータを複数の「断片」に分割し、すべての断片がそろわない限り元のデータに戻せないようにする方式です(All-Or-Nothing Transform)。
仕組みの流れ
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前処理(AONT化)
元データに乱数等を用いた処理を施し、一部だけでは統計的に意味が出ない状態へ変換する。 -
分割(細粒度の小断片化)
AONT化したデータを多数の小さな断片に分割する。各断片は単体では無意味であり、全断片(または所定しきい値)がそろわない限り復元できない。小断片化により保管・転送の単位が細かくなり、運用の自由度が高まる。 -
分散保管
小断片を端末/クラウド/外部媒体など複数の保管先へ分散配置する。小さい断片を多数に分けておくことで、ネットワーク転送やI/O負荷の分散、保管先ごとのリスク分散が取りやすい。 -
利用時のオンデマンド復元
必要時に必要な断片のみをオンデマンドで集約し、短時間で復元して作業する。作業終了後は再度AONT化→小断片に再分割→分散保管へ戻す運用を前提とする。 -
断片管理と可用性設計
小断片化により配置の自由度が増す一方、所在管理・アクセス権限・冗長化(バックアップ/複製)の設計が重要となる。いずれかの断片が失われても復元可能にするため、冗長構成を併用することが望ましい。
— ポイント(断片が小さいことの実務的メリット) —
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柔軟な配置:拠点や媒体をまたいだきめ細かな分散が可能。
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効率:断片単位での並列転送・段階的取得により、ネットワークやI/Oの負荷を平準化しやすい。
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安全性:一部断片の流出では解読不能であり、紛失・盗難時の漏えい耐性が高い。
ビジネスモデル
同社の収益モデルはソフトウェアライセンス販売および関連サービス提供によるもので、ストック型収益(継続課金)を中心に据えている。主力製品のZENMU Virtual Driveはユーザーライセンスのサブスクリプション契約(利用料+保守アップデート費用一体)による安定収入が基本となる。一方で顧客の要望に応じた買い切りライセンス(永久ライセンス)の販売も行っており、大口契約が発生した期には一時的にフロー型収益が増加する傾向がある。
ZENMU EngineやQueryAhead®は現時点ではPoC(概念実証)受託やOEM提供など案件ごとの収益が中心だが、将来的にはライセンス提供によるストック型ビジネスへの移行を目指している。実際、2024年12月期における同社売上648百万円のうちストック売上は約43%(278百万円)を占め、前年から44%増加している。現在はフロー収益とストック収益が混在する収益構造であるものの、情報漏洩対策ソフトの契約継続率が高く蓄積が進むことで、全社として着実に継続収益比率を高めている。
事業環境(成長性)
同社を取り巻く市場環境は追い風が強い。COVID-19後のニューノーマルによりリモートワークが定着し、国内における仮想デスクトップ(VDI)の利用者は2023年時点で約834万人にのぼる。しかしVDIは専用サーバーや高速通信が必要でコスト・運用負荷が大きく、昨今その代替策として安価で使い勝手の良い情報漏洩対策ソリューションが注目されている。
こうした中、PC側でデータを無意味化する同社の「セキュアFAT」ソリューションは、VDIに代わる次世代の安全なテレワーク基盤として市場拡大が期待される。実際にホワイトカラー労働者全体に占めるVDI利用者は一部であり、未開拓企業への浸透余地は大きいと考えられる。
さらにAI・機械学習の活用拡大に伴い、複数企業が機密データを持ち寄って分析・利活用するニーズも高まっている。秘密計算技術の適用領域は金融、医療、製造など多岐にわたり、今後この分野の市場規模は急拡大すると見込まれる。政府もデータ利活用推進に向けたセキュアな情報基盤整備を支援しており、同社は国内発の高度技術を武器に、こうした成長市場で存在感を高めつつある。
KPIとその推移
同社の主要KPIとして、情報漏洩対策ソフト「ZENMU Virtual Drive」の契約ライセンス数が挙げられる。そのライセンス数はサービス提供開始後に急拡大しており、2022年以降、大規模利用(1社で1万超ライセンス)の顧客が増えたことが牽引要因であり、2025年12月期第2四半期末までに累計110,000ライセンスを突破した。解約率も年間1%前後と適正範囲内で安定推移しており、契約ユーザー数は着実に積み上がっている。
この結果、同社のストック型売上は年々高まりつつある。また、新領域である秘密計算ソリューションの受注動向もKPIの一つである。現状はPoC案件数や協業社数などが指標となるが、収益面では2025年12月期第2四半期累計で「QueryAhead®」売上が前年同期比+10.7%増加するなど着実な伸長を示している。今後は秘密計算技術の商用サービス化に伴い、契約社数やライセンス提供数など具体的なKPI開示が進むと考えられる。
業績(実績と今期計画)
2024年12月期の実績
売上高648百万円(前期比+47.0%)
営業利益は76百万円(同+62.9%)
2025年12月期の会社計画
売上高850百万円(前期比+31.0%)
営業利益112百万円(同+47.0%)
経常利益145百万円(同+72.5%)
当期純利益159百万円(同+102.9%)
大幅増収増益の見通し
上期(2025年1Q-2Q 1月~6月)
売上304百万円(前年同期比▲24.2%)
営業損失24百万円(前年同期は139百万円の黒字)
と減収赤字転落となった。
これは主力製品ZVDの大型案件売上が上期から下期に導入延期となったこと、及び前年上期にあった一過性の大型ライセンス収入の反動によるものである。
上期の進捗率は売上で35.8%、営業利益は赤字スタートとなったが、当該大型案件は下期に売上計上が見込まれることから会社側は通期計画を据え置いている。下期には秘密分散ビジネスの安定成長に加え、秘密計算ビジネスにおける受託開発売上が増収に寄与する見通しで、増収効果で固定費増を吸収し通期で3期連続の黒字確保を達成すると予想される。各種投資負担はあるものの、同社は足元の受注案件と商談パイプラインが豊富であり、会社計画どおり業績拡大が実現すると考えられる。
バリュエーション
時価総額 87億円
株価 6,400
会社予想EPS 123.50円
会社予想PER 51.8倍
配当 無配
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