145A LISB ゼネコンの業界標準ビジネスチャット「direct」を核として成長加速 アナリストレポート by ono
株式会社L is B アナリストレポート(要約)
株式会社L is B(東証グロース市場、証券コード:145A)は、「Life is Beautiful(人生は美しい)」を企業理念に掲げ、現場業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するSaaS企業である。主力プロダクトは、現場向けに最適化されたビジネスチャット「direct」。2014年のリリース以降、5,500社超に導入され、ゼネコンの売上上位20社中全20社が導入済みと、業界標準ツールの地位を築いている。
特徴的なのは、特許技術「ゲストモード」によって、元請と協力会社間の情報統制を保ちながら円滑な連携を可能にしている点である。加えて、スマートフォン前提のUIや多言語対応、リアルタイムなファイル共有機能により、ITリテラシーの低い現場でも直感的な運用が可能。大規模企業に向けたユーザー管理機能も充実しており、セキュリティや管理面でも高い評価を得ている。
同社は「direct」を軸に、タグショット(現場写真管理)、ナレッジ動画(教育コンテンツ)、AI-FAQボットなどの周辺サービスも展開しており、1社あたりの利用単価(ARR)の拡大を図っている。また、OEM提供を通じて全国の自治体や信用金庫にも広く導入されており、行政DXや金融インフラにも裾野を広げている。
2025年12月期第1四半期では、売上高が前年同期比+41.5%、営業利益は+72.2%。NRR(既存顧客維持率)は112.5%、directのID数は25万を突破。原価率や販管費率もスケール効果により改善傾向にあり、調整後営業利益率は7.4%を見込む。M&Aにも積極的で、連結子会社システム・エムズの売上・利益が業績に寄与している。
また、2025年4月にはスタートアップ投資と協業を目的とした子会社「株式会社directX Ventures」を新設。現場DXの拡張に資する新技術やプロダクトとの連携・発掘を通じて、非連続的な成長エンジンとして活用していく構想である。
今後は建設業界でのさらなる浸透に加え、製造・物流・金融・インフラ分野などへの展開を加速。また、生成AIを活用した新サービス開発や、スタートアップとの連携を進め、現場向けプラットフォーマーとしての地位を確立しつつある。2030年には時価総額数百億円台半ばの達成を目指し、利益成長と継続的なサービス改善によって企業価値の最大化を図る姿勢を鮮明にしている。
目次
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会社概要と沿革
1.1 設立の背景と社名の由来
1.2 創業者 横井太輔氏の経歴と起業の経緯 -
ミッション・ビジョンと経営理念
2.1 「Life is Beautiful」に込められた想い
2.2 働く人々を支える現場DXへのこだわり -
主力事業と製品構成
3.1 ビジネスチャット「direct」の特徴
3.2 連携ソリューションとプラットフォーム構想
3.3 OEM展開と行政・金融領域での導入 -
顧客基盤と主要事例
4.1 建設業界でのシェアと大手ゼネコン導入実績
4.2 建設業以外(自治体・金融・製造など)での拡大
4.3 特徴的な導入事例(富士電機E&C、広島銀行など) -
業界課題とL is Bの提供価値
5.1 建設業におけるDXのハードルと解決策
5.2 安全性・セキュリティ・ゲストモードの優位性
5.3 業種横断的に求められる現場起点のDX支援 -
特徴・競争優位性
6.1 ユーザビリティと現場適合性
6.2 高い導入実績と特許技術「ゲストモード」
6.3 継続的改善文化と開発スピード -
成長戦略と市場拡大
7.1 建設業界における水平・垂直展開
7.2 他業種への拡張と海外展開の可能性
7.3 M&Aやスタートアップ連携による新成長軸 -
業績推移と収益構造
8.1 ストック売上とショット売上の構成
8.2 主要KPI(ARR・NRR・ID数・利益率)
8.3 中期的な利益改善見通し -
経営課題と注力ポイント
9.1 原価率・販管費構造の最適化
9.2 プロダクト別粗利・投資対効果
9.3 株主還元・時価総額向上に向けた考え方
1. 会社概要と沿革
1.1 設立の背景と社名の由来
株式会社L is B(以下、同社)は2010年9月に設立された。創業当初から「現場業務のデジタル化」に着目し、建設、インフラ、運輸、流通など、いわゆる「立って働く現場」における業務効率化をミッションに掲げてきた。社名の「L is B」は「Life is Beautiful」の略称であり、「働く人々の人生を豊かにする」ことを目指す企業姿勢を象徴している。同社はソフトウェアベンダーとしての技術力を背景に、単なるITツール提供ではなく、現場課題を解決する「ソリューションカンパニー」として進化してきた。中でも主力製品であるビジネスチャット「direct」は、現場DXのインフラとして定着し、建設業界を中心に着実な導入実績を積み重ねている。
1.2 創業者 横井太輔氏の経歴と起業の経緯
創業者であり代表取締役CEOを務める横井太輔氏は、大手ソフトウェア企業で営業、商品企画、社長室など幅広い業務に従事した後、独立して起業家としての道を歩み始めた。かつて開発したアプリ「Feel on!」は、X(旧Twitter)上の投稿を感情解析し、イラスト付きで表現するというユニークなサービスであり、世界累計50万ダウンロードを記録するヒットとなった。しかし、プラットフォーム依存のリスクによりサービス終了を余儀なくされた経験から、「自社で完結できるサービスモデルの重要性」を痛感し、SaaS型プロダクト開発に軸足を移した。これが現在の主力製品「direct」誕生の原点であり、顧客企業の現場課題に対して、自律的・持続的にソリューションを提供する姿勢へとつながっている。
2.1 「Life is Beautiful」に込められた想い
企業理念は、社名にも込められている「Life is Beautiful(人生は美しい)」という言葉に端的に表れている。同社は、単に業務を効率化するためのツールを提供するのではなく、働く人々の人生の彩り・潤いになるサービスを提供したいという想いが込められている。特に、これまでIT化が進みにくかった建設・インフラ・流通などの現場領域において、煩雑で非効率な作業を少しでも減らし、人が本来集中すべき仕事に専念できる環境を整えることを重視している。そのための第一歩として、ユーザーインターフェースの設計やサービスの運用において、誰もが直感的に使えることを前提に開発が進められている。ITリテラシーに左右されない“やさしい技術”こそが、同社の理念を実現する手段となっている。
2.2 働く人々を支える現場DXへのこだわり
同社が目指すDXは、単なる業務のデジタル化や自動化ではなく、「現場で働く人々の課題解決に直結する」かたちで実行されるものである。同社は創業以来、建設業やインフラ、物流など、紙や口頭によるやりとりが多く残る業界において、現場起点のデジタル変革を提案してきた。特に、リアルタイムでの情報共有、現場と本社の円滑なコミュニケーション、複数の協力会社との連携を支える手段として「direct」を中核に据えている。同製品は、スマートフォンのみで操作可能なシンプルな設計でありながら、高いセキュリティや多層的な情報統制機能(特許取得済みのゲストモード)を持ち、現場における実務の合理化と安全性を両立させている。このように、同社のDXは“人を置き去りにしない”という思想を貫き、現場のリアルなニーズに根ざしたアプローチにこだわり続けている。
3. 主力事業と製品構成
3.1 ビジネスチャット「direct」の特徴
「direct」は、2014年にリリースした主力プロダクトであり、現場向けに最適化されたビジネスチャットツールである。最大の特徴は、「現場で働く人のための使いやすさ」を最優先に設計されている点にある。スマートフォン1台で完結する運用が可能で、ガラケーや口頭伝達、紙での報告に依存していた業務フローを大幅に効率化できる。
導入企業は2025年2月時点で5,500社を超え、ゼネコンでは売上高上位20社のうち全20社が導入済みという高いシェアを誇る。また、OEM提供により、全国の8割を超える自治体(1,488団体)でも活用されている。
さらに、「direct」の競争優位性を決定づけるのが、特許取得済みの「ゲストモード」機能である。これは、ゼネコン(元請)と協力会社間での情報統制を保ちつつ、円滑な連携を実現する仕組みであり、協力会社同士では情報が見えず、元請を中心とした安全な情報管理が可能となる。
このような設計思想と機能により、「direct」はチャットにとどまらず、現場業務における“コミュニケーション・インフラ”としてのポジションを確立している。
3.2 連携ソリューションとプラットフォーム構想
同社は、「direct」を単なるチャットツールではなく、現場起点のDXプラットフォームとして位置づけており、さまざまな連携ソリューションを展開している。その構成は「direct」を基軸としたオプション型拡張サービスであり、ユーザーの課題に応じて柔軟に追加・導入が可能である。
主な連携ソリューションには、以下が含まれる。
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タグショット/タグアルバム:写真にタグを付けて現場情報を一元管理し、工程・記録の精度を向上させる。*2023年6月リリース
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ナレッジ動画:スマートフォンでの視聴を前提にした教育動画プラットフォームで、OJTの効率化や技能継承に活用。*2024年3月リリース
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AI-FAQボット:社内規定や業務マニュアルに基づき、AIが自動応答する機能。
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direct Apps:タスク・スケジュール管理、掲示板、日程調整など、現場に必要な汎用業務ツールを搭載。
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DXコンサルティング:上記プロダクトを組み合わせた個社別の業務設計・運用支援サービス。
また、「direct」は外部の建設DX系ツール(スパイダープラス、Autodesk Construction Cloudなど)ともAPI連携を進めており、図面管理や安全管理など他社ソリューションとの共存も可能である。これにより、「direct」は単体ツールではなく、業務全体をつなぐ“ハブ”としての役割を果たしている。
3.3 OEM展開と行政・金融領域での導入
主力サービス「direct」を自治体や金融機関向けにOEM(相手先ブランドによる提供)展開することで、建設業界以外の領域にも着実に浸透している。特に代表的な例が以下の2つである。
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LoGoチャット(自治体シェアトップ):全国の自治体に向けてトラストバンク社からOEM提供されており、2025年2月1日時点で1,488自治体に導入。全国の8割を超えるカバレッジを実現しており、行政内部のコミュニケーション円滑化や、災害時の情報伝達手段としても活用されている。
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しんきんdirect:信用金庫向けに展開されるOEM版。信金中央金庫からOEM提供。顧客との面談予約やチャット対応機能を備え、非対面チャネルにおける業務効率化と顧客接点の強化に寄与している。
OEMによる導入は、「営業コストが抑制できるにもかかわらず、ライセンス収入が継続的に得られる」という収益モデル上の利点も大きい。また、OEM導入先においても、追加オプションや自社開発プロダクトとの連携によって、同社の売上成長ポテンシャルが確保されている。
さらに近年では、広島銀行をはじめとする金融機関でも、外回り営業や災害時の安否確認といった業務で「direct」が活用されており、災害対応ツールとしての信頼性が評価されている。
このように、OEM展開は同社にとって「建設業界に次ぐ第2の柱」としての成長が期待される領域となっている。
4. 顧客基盤と主要事例
4.1 建設業界でのシェアと大手ゼネコン導入実績
ビジネスチャット「direct」は、建設業界において圧倒的な存在感を誇る。2025年時点で、ゼネコンの売上高上位20社中全20社に導入されており、特にゼネコン・サブコン領域での浸透度が高い。
導入先は元請企業にとどまらず、プロジェクト単位での運用を通じて、協力会社・専門工事会社などの下請け層へも波及している。導入初期は一部の現場や部署での試験運用が中心だが、その効果が確認されると全社導入・全現場展開へと進むケースが増えており、利用ID数の拡大が売上成長に直結している。
さらに、戸田建設では全社全現場導入が完了しており、導入の決め手となったのは「direct」の高いセキュリティ性能と、現場作業員にも扱いやすいシンプルなUIである。また、同社が特許を保有する「ゲストモード」機能は、ゼネコンと協力会社間の情報統制を可能にし、建設業界特有の多重請負構造にフィットしている点も高く評価されている。
このように、「direct」は単なるチャットツールを超えて、建設業界における“標準的な現場コミュニケーション基盤”としての地位を築きつつあるといえる。
4.2 建設業以外(自治体・金融・製造など)での拡大
建設業界での高いシェアに加え、自治体・金融機関・製造業など他業種にも「direct」の活用領域を拡大している。特にOEM展開によって、自治体や信用金庫への導入が進んでおり、2025年2月時点で1,488の自治体に導入され、全国自治体の8割以上が利用している。
また、金融業界では、広島銀行での導入事例が注目される。同行では、豪雨災害を契機に「direct」を採用し、主に外回りの営業担当者による安否確認や業務連絡に利用されている。現場系業務を多く抱える業種において、緊急時の通信インフラとしての有用性が高く評価されている。
さらに、2025年に名古屋で開催された「Japan DX Week」では、製造業への展開を意識した「ナレッジ動画」を中心に展示を行い、多数の引き合いを獲得。これまで建設業界中心だった「direct」やその関連プロダクトが、製造・物流・鉄道・介護・不動産などの領域でもニーズがあることが確認されている。
このように、同社のサービスは「立って働く人」の業務現場を対象としつつも、業種横断的な拡張性を有しており、建設以外の業界への水平展開によって、持続的な成長の第2エンジンとしての役割を果たしつつある。
4.3 特徴的な導入事例(富士電機E&C、広島銀行など)
同社が提供するサービスは、業界ごとのニーズに応じた柔軟な導入形態が可能であり、その特性は複数の象徴的な導入事例に表れている。
まず、富士電機E&C株式会社では、「ナレッジ動画」を活用し、OJT(現場教育)の効率化と作業者の基礎知識向上を実現している。これにより、教育担当者の負荷を軽減しながら、作業の標準化と技術継承を推進する仕組みが整備された。また、安藤・間との共同開発によって、教育動画の理解度テストを加えた「N-Pass」も開発されており、教育プロセスの省力化と質の向上に寄与している。
次に、広島銀行では、豪雨災害を契機に「direct」を導入。外回りの営業担当者との連絡手段や、災害時の安否確認に活用されている。同行においては、対面・非対面チャネルの両方を補完するツールとして、業務の安全性と効率性向上に貢献している。
さらに、JR西日本やJR東海の東海道新幹線の現場でも導入事例がある。JR西日本では全社統一のチャットツールがない中でiPad導入を契機に「direct」が採用され、現場作業員との円滑な情報共有に寄与している。このように、鉄道・インフラ関連企業にも導入が進んでおり、現場コミュニケーションに関する汎用性の高さが評価されている。
これらの事例に共通するのは、「現場での実運用に耐えうるシンプルさ」と「セキュリティや管理機能の高さ」であり、特に業種横断的な“現場の共通課題”に応える製品設計が導入の決め手となっている。
5. 業界課題とL is Bの提供価値
5.1 建設業におけるDXのハードルと解決策
建設業界は、業務の多くが屋外や移動中に発生する「現場作業」で構成され、デジタルツールの導入が難しい環境にある。加えて、元請・下請・協力会社といった多層構造が一般的であり、情報共有や進捗管理の複雑さが、DX推進の大きな障壁となってきた。
また、PCを使用する機会が少ない、ITリテラシーが高くない、紙ベースの報告書が多いといった実態も、現場デジタル化の足かせとなっている。これらの課題に対し、スマートフォンで直感的に操作できるユーザーインターフェースを備えた「direct」を中心に、現場向けのDXソリューションを展開している。
とくに、特許取得済みの「ゲストモード」は、元請から協力会社への安全な情報共有を実現するものであり、建設業界特有の重層構造に対応した唯一無二の機能として差別化要因となっている。この機能により、関係者間の情報漏洩リスクを最小限に抑えつつ、必要な情報だけを共有する精緻な権限管理が可能となる。
さらに、API連携による他ツールとの協調も進んでおり、図面管理(スパイダープラス)や工程管理(ビルディ)などと「direct」をつなぐことで、現場全体の業務データを一元化する仕組みが構築されつつある。
このように、現場業務の非効率性や情報の分断という構造的課題に対し、実用性の高いツールで応えることで、建設業界におけるDXの第一歩を現実のものとしている。
5.2 安全性・セキュリティ・ゲストモードの優位性
「direct」の最大の差別化要因の一つは、セキュリティ性と業界特化型の設計にある。特に注目すべきは、「ゲストモード」である(特許有効期間は2035年まで)。この機能は、建設業界における多重下請構造に対応するもので、元請企業が管理者となり、協力会社をゲストとして安全に招待できる設計となっている。
このモードでは、協力会社同士が直接チャットすることはできず、必ず元請が可視化された状態でのやりとりとなる。これにより、情報の統制とトレーサビリティを保ちながら、業務連携を円滑に行える点が、建設業界のユーザーから高く評価されている。現場でのセキュリティリスク(個人LINEやSNSの業務利用など)を排除し、統一された業務用プラットフォームとして運用できる点も信頼性を支えている。
*株式会社鴻池組の導入事例
約80社の協力会社とのやりとりを「direct」に切替、書類作成〜共有の時間を大幅削減
作業着がバラバラであることからも元請けから下請けまで複数の企業が一つのプロジェクトに携わっていることがわかる。
加えて、スマートフォンアプリにおける生体認証対応・暗号化されていない端末での使用制限・指定端末以外からのアクセス制御など、セキュリティに関する細かな機能も実装されており、自治体や金融機関にも導入される根拠となっている。
これらの設計は、単に「堅牢なセキュリティ」だけでなく、現場での実際の運用を前提とした実践的な安全対策であり、業界に特化したSaaSとしての価値を形成している。競合の汎用チャットツールでは実現が難しいこの構造的優位性が、同社が建設業界で高いシェアを確保している理由の一つである。
5.3 業種横断的に求められる現場起点のDX支援
「direct」は、建設業を中心に高い導入実績を誇るが、その活用可能性は他業種にも広がっている。その背景には、「立って働く現場」の共通課題が存在する。例えば、情報共有の遅れ、紙・口頭による非効率な伝達、ITリテラシーのバラつき、セキュリティ面の懸念など、業界を問わず多くの現場で類似の課題が確認されている。
これに対し、「direct」はスマートフォンで直感的に使える設計と、ユーザー管理・アクセス制御を重視したセキュリティ機能により、現場業務におけるDXの導入ハードルを下げる役割を果たしている。建設現場に限らず、鉄道・運輸・製造・物流・小売・介護・不動産など、現場作業が主となる業種においても導入事例が生まれている。
例えば、富士電機E&Cでは教育プロセスの効率化に、広島銀行では災害時の安否確認・連絡手段にと、業種を超えて「現場での即応性」と「情報の可視化」が評価されている。また、製造業向けにはナレッジ動画を中心としたアプローチを強化しており、展示会を通じた新規引き合いも獲得中である。
同社はこのように、建設業で培った現場DXのノウハウをベースに、他業種への水平展開を着実に進めており、業界に依存しない成長基盤を築きつつある。業種特化型ではなく「現場特化型」としてのポジショニングが、同社の事業拡張における強力な軸となっている。
6. 特徴・競争優位性
6.1 ユーザビリティと現場適合性
「direct」の大きな強みは、セキュリティ面だけでなく現場での即時利用を想定した高いユーザビリティと、業務環境に適合する柔軟な設計にもある。特に建設業をはじめとする“立って働く現場”では、PCやメールの利用が限定的であり、スマートフォンによる操作性や、視認性、簡便なインターフェースが求められる。
「direct」は、こうしたニーズに応えるべく、シンプルなチャットUI、リアルタイム通知、写真・ファイル共有、タスク管理など、現場で即座に役立つ機能を搭載。スマートフォン1台で報告・連絡・共有が完結する仕組みによって、現場と本社、あるいは複数の現場間でのコミュニケーションを飛躍的に効率化している。
また、ユーザー管理やアクセス権限設定といった管理者機能も充実しており、大規模な企業での導入にも耐えうる設計となっている。たとえば、何万人規模のユーザー管理が必要な大手企業においても、直感的に操作できる管理画面が高く評価されている。
このように、「direct」は“現場向け”という特化だけではなく、現場の誰もが使いこなせること、そして企業のIT管理者にも負担をかけないことの両立を実現している。これは、UX/UIの設計思想に根差した競争優位性であり、他の汎用チャットツールにはないプロダクト設計上の強みとなっている。
6.2 高い導入実績と「direct GuestMode」特許技術
「direct」は、機能面での優位性と、特定業界への深い理解により、建設業界を中心に急速に普及し、2025年2月時点で導入企業数5,500社超、うちゼネコンの売上高上位20社中全20社に採用されるなど、業界標準としての地位を確立しつつある。
この高い導入率を支える中核技術が、前述の「ゲストモード」である(特許有効期限は2035年)。この機能は、ゼネコン(元請企業)と協力会社(下請け企業)間の情報共有において、元請を中心に情報統制を保ちつつ、協力会社同士のやり取りを制限できるという構造的特長を持つ。
建設業界では、元請-下請間のヒエラルキーや、情報管理の厳格さが求められる中、「ゲストモード」はセキュリティと業務効率の両立を実現する機能として、現場からの高い支持を得ている。また、他社ツールにはない独自機能であることから、差別化要因としても非常に強力であり、導入検討時の決め手として挙げられるケースも多い。
このゲストモードを軸に、API連携を通じて他の現場DXツール(例:スパイダープラス、Autodesk Construction Cloud)と組み合わせることで、業務全体の最適化を図っている。このように、「direct」は単独で価値を発揮するだけでなく、業界全体のデジタルエコシステムにおける中核的存在としての立ち位置を築いている。
6.3 継続的改善文化と開発スピード
同社のプロダクト開発は、単なるリリースで終わらず、「9週間ルール」と呼ばれる独自の運用方針のもと、継続的なアップデートと機能改善が行われてきた。これは、ユーザーからのフィードバックを反映しながら、9週間単位で製品を進化させ続けるという仕組みであり、ユーザーの実業務にフィットし続けるプロダクトを実現するための組織的な運用体制である。
この継続改善の背景には、創業以来一貫して貫かれている「現場の声を聞く」という企業文化がある。営業担当やコンサルタントが実際に顧客の現場に足を運び、課題やニーズをヒアリングし、それを開発チームが迅速に反映する――という「現場発信・現場還元」のフローが確立されている。
現在は「9週間ルール」は取り下げているが、継続的なアップデートは続けている。これまで顧客のニーズに対応してスピード重視で開発を行ってきたため、チャットに関連する機能においては顧客のニーズに対しておおよそカバーできていると同社は認識している。
そこで開発スピード重視から新たな付加価値を提供するための開発体制で余裕を持って開発する志向にシフト。
2025年にはAI対応の専門組織「現場AIラボ」を新設。画像解析やFAQ応答の自動化など、生成AIを活用した新たな機能開発もすでに複数進行中であり、現場ニーズの高度化に応える体制が強化されている。
同社の開発は、単なるSaaS提供にとどまらず、顧客ごとの業務プロセスや業界特性に寄り添った「ソリューション志向型」である。これは、ストック型の月額課金モデルにとって極めて重要な「契約継続率(NRR)」の向上にも貢献しており、2025年1Q時点でのNRRは112.5%と高水準を維持している。
7. 成長戦略と市場拡大
7.1 建設業界における水平・垂直展開
建設業界において確立したポジションを基盤に、「direct」を起点とした水平展開・垂直展開の双方による成長戦略を推進している。すでに大手ゼネコンでの導入は一巡しつつあるが、個別の企業内では全現場での未導入拠点が数多く存在しており、既存顧客内での利用範囲拡大(垂直展開)がストック売上増加の重要なドライバーとなっている。
一方で、「direct」の特長であるゲストモード機能により、元請企業から協力会社へとアカウントを発行することで、プロジェクト単位で利用が広がりやすい構造が存在する。協力会社が「direct」の利便性を体験した結果、自社単独でも導入を決定するケースが増えており、ネットワーク効果的な広がり(水平展開)を実現している。
このような構造は、従来の営業スタイルに依存せず、現場での使用体験が次の導入へとつながるという“自走型の拡張”であり、同社の営業効率の高さを支える要因となっている。実際、元請→下請→他の元請という展開ルートが確立されつつあり、建設業界全体での「direct」標準化が進んでいるといえる。
また、2025年6月時点での「direct」アカウント数は約25万ID。業界全体の就業者数(約350〜400万人)に対して1割未満の浸透率であり、中長期的にはさらなる成長余地が非常に大きい。
このように、建設業界において、「まず一社に深く入り込み、そこから現場ごと・協力会社ごとに広がる」という構造的な導入モデルを確立しており、顧客単価の向上と新規獲得の両立が可能な強固なビジネス基盤を持っている。
7.2 他業種への拡張と海外展開の可能性
建設業界での成功体験と技術基盤をもとに、他業種への展開を次なる成長ドライバーと位置づけている。すでに「direct」は、自治体、金融、鉄道、製造、物流、小売、介護、不動産などの現場業務においても導入が進んでおり、現場DXの“水平展開”としての成果が着実に現れている。
たとえば、金融機関では広島銀行が「direct」を採用し、災害時の安否確認や外勤営業の業務連絡に活用している。製造業では、展示会「Japan DX Week 名古屋」への出展を通じて、「ナレッジ動画」などの教育・情報共有ソリューションへの関心が高まり、多くの新規引き合いを得た。これは、建設業界に限らず、“立って働く現場”が共通して抱える課題(情報の分断・非効率な報連相・ITリテラシーのばらつき)に「direct」が応えうることを裏付けている。
また、海外展開についても実績が出始めている。たとえば、フジタなど日本のゼネコンが海外で展開する工事現場(インド・台湾・メキシコ)でも「direct」が導入されており、進捗管理やタスク共有に活用されている。現時点では、現地企業からの自発的な契約には至っていないものの、今後の現地浸透や国際的な横展開への可能性を示す事例として位置づけられている。
このように、「現場を持つ業種」にフォーカスしたソリューション展開を武器に、建設以外の業界・地域への拡張を着実に進めており、国内市場における垂直深化と海外市場を含めた水平拡張の両面から、成長余地を広げている。
7.3 既存サービスの品質向上と新サービスの開発・市場展開
定期的なアップデートの実施により既存サービスの品質向上を実現しながら、前述の通り、新たな付加価値を提供する開発にも注力する。タグショット/タグアルバムのように付加価値の高いプロダクトを提供することで単価を上げることにもつながると考えている。また、現場AIラボを設立し生成AIを生かしたプロダクトの開発にも着手。すでに複数の導入実績もある。
*現場AIラボの実績
7.4 M&Aやスタートアップ連携による新成長軸
主力サービス「direct」を軸とした有機的な成長に加え、M&Aやスタートアップ連携による非連続的な成長戦略にも注力している。2025年にはスタートアップ投資を専門とする子会社「株式会社directX Ventures」を設立し、戦略的出資や共同開発によって、自社の技術・顧客基盤と補完し合える事業領域とのシナジー創出を本格化させている。
直近の例としては、株式会社システム・エムズを連結子会社化しており、2025年1Qには売上5.3億円、営業利益1.0億円と、単体業績に寄与する成果を早くも上げている。システム・エムズは、同社の既存顧客基盤に対してシステム開発サービスを提供可能な技術力を有しており、「direct」と連携した受託開発(ショット売上)の強化を担う存在として機能している。
スタートアップ投資子会社「directX Ventures」の設立
2025年4月、L is Bはスタートアップ企業との協業および新規成長機会の獲得を目的として、完全子会社「株式会社directX Ventures」を設立した。この新会社は、現場DXの発展に資する革新的な技術やサービスを有する企業への投資・業務提携を行うものであり、従来の「direct」を軸とした成長に加え、外部リソースを活用した非連続的な成長戦略を支える存在として位置づけられている。L is Bはこの取り組みを通じて、技術革新のスピードに対応し、現場の課題解決力をさらに高めることを目指している。
今後のM&A戦略としては、以下の2領域に注力すると明言されている:
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既存顧客にクロスセルできるプロダクトを持つ企業
例:ナレッジ動画、FAQボットなど現場向けの業務支援ツール -
開発力を有し、ショット案件の内製比率を高められる企業
→ システム開発力の強化によって、外注費抑制・粗利改善を目指す
こうした戦略は、ARR(年間経常収益)の向上を図る一方で、スポット売上(ショット)の安定化にも寄与し、収益構造の多様化と経営の柔軟性向上につながっている。
「direct」を中心とした現場DXプラットフォームを構築しつつ、周辺領域をM&Aで補完・統合することで、より広範かつ深いソリューションを顧客に提供できる体制を構築しつつある。
7.5 価格戦略と今後の値上げ方針
これまでの成長戦略においてサービス価格の据え置きを徹底し、主力製品「direct」をはじめとする各種プロダクトの導入障壁を下げることで、シェア拡大を優先してきた。その結果、建設業界を中心に圧倒的な導入実績を築き、自治体や金融など他業界への浸透も進んでいる。現在、ある程度の顧客基盤と利用定着が進んだことから、同社は今後の値上げのタイミングを慎重に検討しており、価格改定による収益力強化が中期的な利益成長の新たなドライバーになる可能性がある。この点は、投資家にとっても注目すべき戦略転換のサインといえる。
8. 業績推移と収益構造
8.1 ストック売上とショット売上の構成
同社の収益構造は、安定性の高いストック売上(サブスクリプション)と、変動性のあるショット売上(受託開発・コンサルティングなど)で構成されている。
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ストック売上は、主に「direct」およびその連携ソリューション(タグショット/タグアルバム、ナレッジ動画など)の月額利用料で構成される。また、「LoGoチャット」や「しんきんdirect」などのOEMライセンスも含まれており、2025年1Qでは売上高全体の約80.0%を占めている。
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一方で、ショット売上は、システム開発やコンサルティングなどの受託案件による一時収益であり、2025年1Qには前年同期比で増加。特に連結子会社システム・エムズの売上(5,300万円)が寄与している。
ストック売上は安定的な成長基盤として、解約率も低く、NRR(既存顧客売上維持率)は112.5%と高水準を維持。一方、ショット売上の増加は、顧客との関係が深化し、「direct」導入後の追加要望(カスタマイズ・連携開発)が増加していることの裏返しでもあり、プロダクトの浸透度の高さを示すポジティブな兆候といえる。
なお、ショット売上比率の上昇によりストック売上比率が前四半期比で低下するケースもあるが、これは短期的なバランス変化であり、両軸の成長が企業価値の向上に寄与するという経営方針に基づいた戦略的な構成である。
8.2 主要KPI(ARR・NRR・ID数・利益率)
業績管理においては、ARR(年間経常収益)・NRR(既存顧客売上維持率)・direct ID数・営業利益率などが重要なKPIとして機能している。これらの指標は、SaaSモデルにおける安定的な成長性と顧客基盤の強さを示すものであり、2025年12月期第1四半期では以下のような成果が確認されている。
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ARR(Annual Recurring Revenue):
2025年1Q時点で前年同期比+18.9%増。特に注目すべきは、ARR増加のうち既存顧客からの拡大(アップセル)が多くを占める点であり、顧客の継続利用・深度化が売上の牽引役となっている。 -
NRR(Net Retention Rate):
既存顧客の契約更新と追加契約の比率を示すNRRは、2025年1Qで112.5%と高い水準を維持。これは、すでに契約している顧客からの追加収益が解約分を大きく上回っていることを示しており、サービスの満足度とスケーラビリティの裏付けといえる。 -
direct ID数:
2025年1Q末時点で、約25万IDに達し、前年同期比で+21.4%の増加を記録。建設業界の就業人口約350〜400万人と比較しても、まだ1割未満の浸透率であるため、IDベースでの成長余地は極めて大きい。 -
営業利益率:
2025年1Qの営業利益率は11.7%(前年同期比+2.1pt)。2024年通期での営業利益率は3.0%であったが、M&Aによる一時費用除き「調整後営業利益率」は4.8%から7.4%へと上昇見込み。中期的には10〜20%の営業利益率を目指す方向性が示されている。
これらのKPIのいずれもが前年を大きく上回る成果となっており、サービスモデルが高いリテンション(継続率)と拡張性を両立していることを明確に裏付けている。
8.3 中期的な利益改善見通し
2025年12月期において、売上高・利益のいずれにおいても大幅な成長を計画しており、営業利益率の改善とROEの向上を明確に経営目標として掲げている。具体的には、2024年12月期の調整後営業利益率4.8%、ROE約0.8%に対し、2025年12月期には営業利益率7.4%、ROE6.0%前後への改善を見込んでいる。
この改善の背景には、以下の複数要因がある:
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ストック売上比率の高さによる利益率安定
2025年1Q時点でストック売上比率は約80%。解約率が低く、NRR(既存顧客売上維持率)は112.5%と高水準で推移しており、売上の蓄積による収益ベースの安定化が見込まれている。 -
ショット売上の増加と内製化による利益率改善
2025年より連結対象となったシステム・エムズが受託開発を担うことで、開発外注費の抑制と高利益率な受注案件の内製化が進行。これにより、粗利率の向上と営業利益率の改善が図られている。 -
販売管理費の最適化とスケール効果
営業人員や開発人員の増強を行いながらも、既存顧客への深耕営業を軸とする効率的な体制により、セールス&マーケティング費比率は徐々に低減。売上成長に対して販管費の増加率が抑えられており、スケールによる利益率の改善傾向が明確となっている。 -
新サービス投資の収穫期入り
タグショット/ナレッジ動画といった新規プロダクトはリリース初期の開発投資がかさんでいたが、現在は顧客導入が進み、収益貢献フェーズに入りつつある。これにより、全体の原価率改善も期待されている。
中期的には、これら複数の構造的改善が重なることで、調整後営業利益率10〜20%の水準を目指す方針が掲げられている。SaaS企業としては高水準であり、資本効率の改善とともに、企業価値の段階的な引き上げが現実味を帯びているフェーズといえる。
9. 経営課題と注力ポイント
9.1 原価率・販管費構造の最適化
中期的な収益性向上を目指す上で、主要な経営課題のひとつが原価率および販管費の最適化である。とくに2023年から2025年にかけては、新サービスの立ち上げやM&Aに伴う一時費用が発生し、原価率・販管費率が横ばいで推移してきた。
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原価率の現状と課題
売上総利益率は2023年以降65%前後で推移。主な圧迫要因は、ナレッジ動画やタグショット/タグアルバムなどの新サービスに対する先行投資型の開発コストである。売上に先行して開発・運用原価が発生する構造のため、全体の粗利率が一時的に抑制されていた。
ただし、これらのサービスが徐々に導入フェーズに入り、売上貢献が拡大していることから、今後は原価率の改善が進む局面に入ると想定されている。 -
販管費構造の見直しと人員戦略
販管費については、採用増により一時的に上昇したが、生成AIを活用した業務効率化や、開発人員の内製強化によって効率的な組織運営を実現しつつある。2025年は採用数を抑え、増員は前年比でやや減少(昨年14名→今年は8名前後を予定)とすることで、販管費増加を抑制する姿勢が明確に示されている。 -
スケールによる比率低減効果
ストック売上の積み上げにより、売上ベースの拡大が進む中、販管費・原価の増加率は相対的に鈍化しており、2025年1Q時点で営業利益率は11.7%と前年から2.1pt改善している。これは、固定的なコスト構造のなかでスケールメリットを享受できるSaaSモデルの特徴が如実に表れた結果である。
今後は、これまで投資してきた人員や開発コストを活かしつつ、収益性の向上を本格化させる段階に入りつつあり、原価構造の健全化と販管費のコントロールが利益成長のカギを握る局面となっている。
9.2 プロダクト別粗利・投資対効果
プロダクトポートフォリオは、主力の「direct」およびその連携ソリューション(タグショット/タグアルバム、ナレッジ動画、AI-FAQボット等)で構成されており、それぞれにおいて売上・原価・開発投資のバランスが異なる。
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「direct」:高粗利・収益の中核
「direct」はID課金型のSaaSモデルであり、解約率も低くNRRは112.5%と高水準。通信費など一部の変動費はあるものの、ID数の増加に伴う収益増加が原価の増加を上回る構造になっているため、粗利率は高く、利益の柱となっている。 -
新サービス(タグショット、ナレッジ動画など):初期コスト高も将来性大
タグショット/タグアルバムやナレッジ動画などは、まだ立ち上げ段階にあることから、売上に先行して開発・運用コスト(原価)が発生しており、短期的には粗利率を押し下げる要因となっている。しかし、現場での教育・情報共有ニーズは高く、実際に製造業・建設業を中心に引き合いが増えており、利用拡大フェーズに入れば高粗利化が見込める。 -
ショット売上(受託開発・コンサルティング):収益貢献と粗利率のバラツキ
顧客からの個別要望に基づくシステム開発・連携構築による受託案件(ショット売上)は、案件ごとに粗利率が異なる傾向がある。2025年以降は、システム・エムズの連結により、内製化によるコスト削減と納期短縮が進み、粗利改善が期待されている。 -
OEM関連(LoGoチャット、しんきんdirect):固定コスト低・限界利益大
OEMによる売上は、営業コストがほとんど発生せず、ライセンスフィーが収益源となるため、一定規模に達した段階で非常に高い限界利益率を発揮する。実際、OEM導入先でのアップセル余地も存在するため、低投資で高収益性が見込まれるポートフォリオである。
このように、同社のプロダクト群は投資フェーズと収穫フェーズが混在する構成となっており、時間軸とともに収益性のポートフォリオが改善していく構造にある。特に「direct」が生むストック売上の安定性が、新規プロダクトへの投資余力を支えている点も、同社の競争力の根底にあるといえる。
9.3 株主還元・時価総額向上に向けた考え方
現在、成長投資を優先するフェーズにあり、配当などの直接的な株主還元策は現時点では実施していない。一方で、東証グロース市場における「時価総額100億円基準」の改革動向を強く意識しており、企業価値向上に向けた中長期的な取り組みを明確にしている。
特に、IR説明会においては、2030年時点で時価総額「数百億円台半ば」を目指すとの目標が語られており、そのための具体的な戦略として以下の3点が強調されている:
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「direct」のID数拡大
建設業界を中心に、既存顧客内での利用拡大と、下請け・協力会社への水平展開によりID数の増加を図る。ID課金制により、ストック売上が拡大すれば利益率も上昇し、企業価値に直接的に反映される。 -
クロスセルによるARR増加
ナレッジ動画、タグショット、FAQボットといった関連プロダクトを「direct」導入企業に提案することで、既存顧客1社あたりの契約単価(ARPU)を引き上げる戦略を進めている。 -
M&Aによるシナジー創出と非連続成長
開発力やクロスセル可能なサービスを持つ企業の買収により、ショット売上の効率化と中長期的な事業拡張を狙っており、財務体力を活かした資本政策の実行余地も確保している。
また、現在の利益水準では時価総額100億円超は困難ではという投資家の懸念に対しても、着実な営業利益率・ROE改善を通じて実力を伴った企業価値向上を目指すと明言している。今後、一定の収益性を確保した段階での株主還元の可能性も視野に入れると考えられる。
このように、同社は市場の期待と健全な財務運営のバランスを取りながら、企業価値向上に取り組む姿勢を鮮明にしており、株主との対話を重視した経営スタンスが今後の評価拡大の鍵となる。
10.業績・バリュエーション
10.1 会社計画・四半期実績
2025年12月期の業績の会社計画は、売上高2,080百万円(前期比+30.5%)、営業利益154百万円(同227.7%)の計画。
2025年5月15日に発表した第1四半期の業績は売上高514百万円、営業利益59百万円。
通期計画に対する進捗率は売上高24.7%と前年同期22.8%を上回って進捗している。
また、営業利益は38.3%の進捗率となっている。
同社はストック売上の割合が大きく、四半期ごとに売上が積みあがっていくビジネスモデルであるため、通期見通しの達成確度は高いと判断できる。
10.2 バリュエーション
時価総額 45億円
株価 880(2025年6月18日終値)
会社計画EPS 22.44
PER 39.2倍
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