4378 CINC webマーケティングをリードする by宇佐見

沿革

1.切磋琢磨したチームメンバー同士

同社の立ち上がりは、かつてSEOを主とするマーケティングコンサルティング会社Speee(東証スタンダード4499)で共に働いていた現社長の石松氏と副社長の平氏、両氏の意気投合に初端がある。

Speeeでは平氏が分析官、石松氏は平氏の分析結果を顧客へ提示し進行管理等を担当するポジションであった。チームメンバー同士であった両者は得意分野も全く異なっていたが時折、仕事帰りに人生ビジョンを語り合っていたという。アメリカでエンジニアリングを学んだのち国内で一度起業に失敗の経験を持つ平氏と、また同じく起業の経験を持つ石松氏とのチームは、「いいものを自分たちの力で顧客に届けたい」熱意に溢れていた。

■2014年の会社設立当初石松氏35歳、平氏28歳

出所:同社資料

2.設立のタイミング到来 (2012‐2013年)

両者が創業を志す前は、今よりもレガシーな形の施策が主流であったSEOは、ウェブ検索上で自社コンテンツを上位に表示させることを目標にするマーケット施策であるが、具体的には国内ウェブサイトの95%をカバーするGoogle検索エンジンから高評価を得ることが目標となる。

Googleは「クローリング」という技術を用いてweb上をくまなく検索し、独自のアルゴリズムに基づいて世の中に溢れるサイトを順位付けするが、2010年代前半まではこれが、例えばグーグルが検索しやすいコード構成の方が、また例えば他サイトでのリンク数が単純に多い方が優位に働くといった構造となっており、現在のようにコンテンツの内容自体をクローリングが理解するまでには技術が達していなかったため、サイト運営者にとっては、自らが作るコンテンツそのものの充実性を高める動機付けが働きにくかった。

ところが2012年、「パンダアップデート」・「ペンギンアップデート」という2つの革新的アルゴリズム変更が加えられたことにより一気に、Google検索エンジンはコンテンツ内容そのものの価値が順位付けに影響を与える技術へと進化した。


出所:各種情報を元にリンクスリサーチ作成

この時期、2人が同社を創業する1年程前。Google検索エンジンの革新は、これまで自分達が培ってきた技術をもってコンテンツ作成の分野において顧客に価値あるサービスを届けられるのではないか、という思いが湧き上がるきっかけであり、ここから同社起業への歩みがはじまることとなった。

■同社の歩み

出所:同社資料

3.起業の失敗を糧に創業2期目から営業黒字達成 (2014年)

2014年4月1日、石松氏と平氏の2人は同社を設立する。Speeeへ入社前にも起業を経験している石松氏と平氏。外資系証券会社で一定のキャリアを積んだ自信を糧に起業した石松氏は、日々銀行口座開設から契約書作成とあらゆる業務を一人でこなす中、売上拡大と他業務とのバランスに苦しみ、会社の中でビジネスができるようになることと起業が成功するということとは全く違うということを思い知る。一方の平氏も、24歳でSpeee入社後は新人賞を取得する等社内で秀でた存在であったが、入社前に一旦起業を試みていたものの最終的にキャッシュが枯渇してしまった経験を持つ。2人はこのことから、「最初から黒字化ができる」体制構築を同社の立ち上げに際し確固たる条件として自分達に課し、同社は創業期より営業利益黒字を達成し発進。

4.徐々にSEO施策も手掛けるように (2014‐2015年)

設立当初、同社の事業内容は、顧客企業からコンテンツ作成の依頼を受けて作成を担うものであった。当時はコンテンツマーケティングが世に広まる初段階でもあり、コンテンツ作成を専業とする企業は既に複数存在していた。競合に対する優位性を持つことも目的に設立と同年、納品や発注管理を迅速かつ効率的に運営するためのシステム「ContentForce」をリリース(※)。一方、事業を開始して間もなくから、平氏の分析力と石松氏の営業力という知見と経験を兼ね添えた強力な組み合わせが知れ渡るに従い顧客企業から、コンテンツ作りだけでなく、どのようなコンテンツを作ればいいのかという、SEOマーケティングへ至る分野に関するアドバイスまでも求められるようになっていく。このようにして石松氏と平氏を中心とした少数精鋭体制のまま、受注の量と範囲がどんどん広がっていく状況となりそうした中で設立から翌年の2015年、顧客毎においてマーケティング施策を自由にスイッチングできる「スイッチングオプションサービス(後述)」を導入。

(※)同システムは機能の一部をKeywordmapに移した後、同社がコンテンツ作成請負事業を終了したため現在は使用されていない。

5.Keywordmapリリース (2016‐2017年)

当初、請け負うコンテンツ作成やアドバイスに際しては競合ウェブサイトひとつひとつをみながら「ここがいいのではないか」と対策を立てていた。しかしそれでは、増える受注に対しほぼ石松氏と平氏が全てを賄う体制において時間がいくらあっても足りない。そこで、社内で作業を効率化できかつ主要メンバー以外の社員も扱えるツール作りに平氏が着手。そうして出来上がったのが、今同社収益の内約半分を占めるソリューション事業において1弾目のサービスである、Keywordmapの原型であった。当初外販の予定は全くなかったこのツールであるが思いもよらず顧客から好評を得、それならばということで販売を開始したところ思わぬヒットとなり現在に至るまで同社事業の強力な柱として成長を続けている。

6.3人経営体制となりいよいよ基盤固まる (2018‐2019年)

創業期から黒字化達成、技術力を買われての受注拡大と勢いある成長軌道に乗りつつあった同社事業であったが、その反面、石松氏と平氏を中心とする少数精鋭体制であることでの弱みがより明確化していく。この先成長を飛躍させていくために社内体制の立て直しが急務だったこの時期2018年、経営陣3人目の強力メンバーとなる雨越氏が同社に加入することとなる。雨越氏は石松氏のJPモルガン証券在籍時代の同僚。公認会計士資格を持つ同士に経営管理を任せ、信頼できる新たなパートナーを迎えた同社はそこから人員拡充とそれに伴う人事面を中心とした社内体制作りにおよそ2年集中し取り組み、安定成長への基盤を構築していく。


出所:同社資料

7.Keywordmap for SNSリリース・上場 (2019‐2021年)

2019年、システム第2弾となる、Twitterを分析対象としたKeywordmap for SNSをリリース。顧客の流入から販売への導入を目的とするGoogle検索を対象とするSEOと異なりTwitterを対象とするマーケティングの場合、顧客をまずファン化させることが目的となる。ウェブマーケティングカテゴリーにおいて同社はまた一段、得意領域を拡張させた。収益も概ね安定増を継続する中で同社は、より付加価値の高いサービスを提供したいという創業時からの熱意そのままに、そのためとなる最大の財産となり得る有力な人材の獲得を行うべく、設立から7年半後の2021年10月、マザーズ(現在は東証グロース)へ上場。更なる成長ステップへの段階へと差し掛かる。

市場の中での位置づけ

マーケティング史及びカテゴリーにおける同社事業の位置づけを確認してみたい。マーケティングの歴史の始まりは産業革命終期1900年頃との説が有力だが、当時から現在までの変遷を把握する上で最も世に知られるのがフィリップ・コトラーが提唱する「マーケティング1.0~4.0」となる。2022年4月には同氏より「マーケティング5.0」も発表されており、これらをベースとしたマーケティング年表が下記表となる。


出所:各種情報を元にリンクスリサーチ作成

下記表はマーケティングツールをカテゴリー区分したものである。特定のニーズを持つユーザーに対してナーチャリング(教育)を含めた購買誘導を、ビッグデータを用いて行う内容の同社が提供するマーケティング手法は、歴史上では、インターネット手法を使って顧客の自己実現に関与するマーケティング4.0からビッグデータの活用が可能となる5.0、現カテゴリーにおいてはwebマーケティングに属すると考えられる。


出所:各種情報を元にリンクスリサーチ作成

優位性と強み

1.トップクラスの知見を有した先駆者

ここまでにも述べてきたことであるが同社の優位性は、業界トップクラスの知見と経験を兼ね添えてGoogle検索エンジンアルゴリズムの革新的アップデート直後という絶好のタイミングで、SEOマーケティングの分野へ先陣を切ってエネルギッシュに参入したところにある。

現在同社の事業は、顧客の認知から検討へ至る過程におけるマーケティングにポジションを有している。購入後リピート以降の過程においてはPLAID(東証グロース4165)、yappli(東証グロース4168)、F-CODE(東証グロース9211)など数社の上場競合企業が存在するが、同社が属する購入前過程においては、ポイント的にツール提供等行う会社は出てきてはいるものの明確なバッティング企業は未だいない領域となる。


出所:同社資料

2.営業力

同社が顧客に対して提供するマーケティングノウハウは、同社自身の集客においてもその力を発揮している。例えば、シリーズ化し週に2~3回必ず開催しているウェビナーはコロナ禍展示会へ足を運べなかった大手企業経営者や関連部門メンバーにとっての勉強の場としてその内容の充実さから人気を博し、これをきっかけに顧客に占める大手企業割合が増加している。

■同社開催のウェビナースケジュール例

出所:TECH PLAY

またKeywordmapACADEMY、MarketingNative等メディア運営も多様豊富に平行提供しており、SEOマーケティングに関連するウェブ検索において同社が提供する情報に触れる機会は多く、社名を周知させる施策が強力であることが伺える。

3.スイッチングを前提としたコンサルティングサービス

同社はアナリティクス事業で、独自のサービスであるスイッチングオプションサービスを2015年から展開している。同社が主にターゲットとする大手企業において日本ではまだ、マーケティングを専門職として捉える向きは弱く社内ローテーションの一環部門として位置付けられている場合が多い。そのためマーケティング自走可能に足るノウハウを有する企業は少なく、そこで同社が各社とパートナー体制でサポートに入る、これが同社のアナリティクス事業となる。同社からコンサルタント・データアナリスト・クリエイティブディレクターの3者がチームとなりサポートにあたるがサービス提供開始時において顧客企業はまず自分達の、また競合他社のウェブサイトにおいて何がわるいのかいいのか分析し、続いてどのような対策を打つかの段階に入り対策の検証また次の対策というサイクルに入っていくのが通常となる。そこで同社は各施策について40万円からの月額一定料金(現在は月額単価平均62万円)を設定した上で、月単位で施策変更を可能とし提供しておりこれが同社特色のスイッチングオプションサービスとなる。施策には戦略立案、SEO対策、CVR改善、A/Bテスト、コンテンツ作成、サイト作成ディレクション、レポーティング等が含まれている。

4.Keywordmap

(1)概要

Keywordmapの役割はSEOにおける重要な要素であるターゲティング(顧客の絞り込み)・ナーチャリング(顧客の育成)の精度を高める部分にある。自社サイト訪問分析無料ツールとしてはGoogle Analyticsが広く使われるが、他社サイト分析までカバーしている点ではKeywordmapが現状唯一となる。自社開発のクローリング技術を用い収集した膨大なビッグデータを駆使、webマーケティングの調査・運用・レポーティングの3つに分類される複数の機能を有する。顧客企業における大幅な費用削減および、増収の両面に有効性を発揮している。機能数は現在50を超え、随時新機能の実装及び改良を施している。

(2)機能

■代表的な機能

出所:Keywordma紹介ウェブサイト

機能例① ワードマップ

キーワードを1語入力するとこのように(下図)、その単語から太細様々な線が別の単語に向かって伸びる。散らばっている単語は、入力した(中心にある)単語と一緒に人々が検索欄に入力する単語を示しており、線の太さはその頻度の大小を表している。


出所:個人投資家向け勉強会動画

例えば下の例では、「ダイエット」に関心がある層は「ダイエット」+「レシピ」に関心がある確率が高く、さらに、「ダイエット」+「レシピ」+「晩御飯簡単」や「ダイエット」+「レシピ」+「腹いっぱい」の組み合わせでweb検索される場合が多いことを示している。この機能によって、自社商品を訴求できる層を新しく発掘していくことができ対象顧客層を一気に広げることも可能となる。


出所:個人投資家向け勉強会動画

機能例② 検索キーワード分析

入力した単語に紐づけて検索され得る単語が一覧表示され、かつこれらを、検索回数・広告単価・競争度合いで絞り込むことができる機能となっている。

この画面でキーワードの入力および、検索ボリュームなどの絞り込みを行う。


出所:個人投資家向け勉強会動画

検索結果がズラリと表示される検索結果の内1行を切り取った下例、「クレジットカード」「年収」の組み合わせでは、検索回数が880回、広告単価(CPC)347円、競合性13%であることが分かる。競合他社が少ないキーワードをみつけることも可能であるし、逆に、誰も入札をしていない(=顧客の購買意欲がない)すなわち使ってはいけないキーワードもみつけることができる機能となっている。


出所:個人投資家向け勉強会動画

同ツールの分析機能は先述のGoogle検索エンジンのアルゴリズムに合わせて行われるが、アルゴリズムは影響の大から小にわたり常時変更が加えられているため、ツール機能も常時アップデートの態勢となっており同社はホームページで毎月、「Googleアルゴリズムコアアップデートレポート」としてアップデート箇所について報告を行っている。

(3)課題解決

このツールを使うことによる顧客企業における課題解決としてはまず、これまで人力によっていた無数の競合サイトやキーワード調査分析が一転、高品質データを迅速取得できるようになるため、従来業務の大幅な業務効率化があげられる。業務コストが1/10にまで縮小した例、残業時間25%・資料作成時間45%削減に成功した例が実際にある。続いて収益面でも効果が期待でき、オーガニック検索のユーザー数が導入前と比較しピーク時約7倍になったとする例、企業によっては3年間で65倍を実現した例などがある。

■導入事例

出所:同社資料

(4)サービス価格

提供開始した2016年は現在よりもよほど低価格の設定としていたが、顧客ニーズに応じ機能を拡充させていくに伴い引き上げを重ね、現状の価格帯に落ち着くこととなった。価格帯は初期費用が15万円~、月額費用は「ライト」9万8千円~、「スタンダード」14万8千円~、「エキスパート」19万8千円の3段階設定となっている。以上は事業会社向けの価格であり、広告代理店対象では初期費用30万円~、月額費用「スターター」19万8千円~、「ライト」24万8千円~、「スタンダード」34万8千円~、「エキスパート」44万8千円~の4段階設定と、同一グレードで比較すると広告代理店向けは事業会社向けの2倍以上の価格設定となっている。

5.Keywordmap for SNS

(1)概要

Twitterに特化した分析ツール。Keywordmapとの最大の違いとしては分析対象として、KeywordmapはGoogle検索エンジンであるのに対しKeywordmap for SNSはTwitterであることの他に、Keywordmapはニーズ発掘の意味合いを持つのに対しKeywordmap for SNSは顧客をファン化させることに軸足を置いている点となる。現在、全20種の機能が搭載されており、企業のみならずTwitterを駆使する個人にとっても使用価値はあると考えられるものの現在販売対象はあくまで企業としている。

(2)機能

■代表的な機能

出所:Keywordmap for SNS紹介ウェブサイトを元にリンクスリサーチ作成

機能例① 運用アカウント分析

ワードを検索欄に入力するとそれに応じ、関連するTwitterカウントがフォロワー数等各種情報と共に表示される。

出所:個人投資家向け勉強会動画

この一覧の中から分析対象を選ぶと、対象アカウントのフォロワー数推移が表示される。


出所:個人投資家向け勉強会動画

フォーカスし選択すると、どのタイミングで対象アカウントが何を呟いたのかを確認することができる。


出所:個人投資家向け勉強会動画

対象アカウントが呟いた時間(横軸)と曜日(縦軸)毎の回数や、


出所:個人投資家向け勉強会動画

1日あたりのツイート数および「いいね」獲得数の平均値も確認が可能。


出所:個人投資家向け勉強会動画

対象アカウントがツイートで使用したことのあるワード毎の頻度(下記例では「選」というワードが最多使用されていることが確認できる)


出所:個人投資家向け勉強会動画

ワードとエンゲージメントの相関マップについても確認が可能。


出所:個人投資家向け勉強会動画

(3)課題解決

このツールを使うことによって得られる効果は、Twitter施策における顧客企業名や提供商品の周知強化となる。実例としては、ツール使用以前は施策自体の精度が精緻でなかったところツール導入によりハッシュタグ選択、最適な投稿時間が明確化、結果としてフォロワー数が半年で1.7倍増に加え自社サイトへのPVが大幅に増加したとの企業例等がある。

(4)サービス価格

Keywordmapが3段階のグレード設定としているのに対し、Keywordmap for SNSは現段階ではまだオプションメニューに応じた明確なグレード差を設けていない。初期費用はKeywordmapと同一の15万円~(広告代理店向けは30万円~)。月額は12万円~(広告代理店向け20万円~)とKeywordmapの「ライト」と「スタンダード」の中間程度の価格帯設定となっている。

リスクの検討

1.創業メンバーへの依存

創業時より同社事業の根幹を方向付け継続した収益獲得を実現している石松氏、そして、「Keywordmap」、「Keywordmap for SNS」をほぼ単独で生み出した平氏は現在なお同社の運営において欠かせない担い手であり、彼らの喪失は同社にとって大きなリスクとなる。平氏においてはかつてほぼ全てを取り仕切っていたツール開発で現在は、同氏のアイディアを元に行う実際の開発作業及び保守運用に際しては約20名のエンジニア部隊が従事してはいるものの、ブレーンの役割を持つ同氏を同社が仮に、喪失した場合にソリューション事業の進展は大きな影響を受けざるを得ない状況にあると考えられる。ただし、平氏は現在計20%弱の株式を保有している状況であることから、同リスクの発生は現実性としては薄いものと考えられる。

2.競合の出現

デジタルマーケティング市場は現在成長期であり、国内国外において新興企業やプロダクトが多く参入してきている。今後新たな集客プラットフォームの出現が同社にとって脅威になる可能性は否定できない。

■ビジネスアナリティクス市場予測

出所:デロイト トーマツミック経済研究所発表データを元にリンクスリサーチ作成

コンサルティングサービス市場予測を毎年更新しているIDC Japanでは、2021年に発表の予測において、2025年までのビジネスアナリティクスを含むデジタル関連コンサルティングの成長をCAGR 30.1%、戦略なども含めたビジネスコンサルティング全体成長についてはCAGR9.3%と置いている。

■ビジネスコンサルティング市場予測

出所:IDC Japan発表データを元にリンクスリサーチ作成

今後

1.アナリティクス事業とソリューション事業の両軸展開

同社が現在展開しているのは、デジタルマーケティング全般のコンサルティングを提供するアナリティクス事業と、SaaS販売においてツール提供を担うソリューション事業の2軸。収益割合はほぼ拮抗した形となっている。

一般的にSaaSサービスは提供側において、収益の安定性及び労働力のミニマム化が可能である点でこれとないメリットを有することから、複数サービスを提供している場合SaaSサービスに注力し軸として育てる選択をする企業が多いが、同社の場合は、アナリティクス事業は人員さえ充足できれば安定収益が見込めること、また、ソリューション事業においてはこれまで世に出したKeywordmap、Keywordmap for SNSのヒットが開発当初から見込むことは困難であり必ずしも、今後開発するツールについてもヒットする確証もないという背景から、いずれの事業においてもできうる限りの成長を目標に据えるとしている。

2.新ツール開発

同社は2022年5月、YouTubeの視聴ニーズ分析ツール「Vid Analytics(ビッドアナリティクス)」を開発し無償提供を開始。現段階では未知数ではあるものの可能性としては、現在提供しているKeywordmap、Keywordmap for SNSと同様程度のヒットとなることも考え得る。同社がポジションを置く、消費者の認知・興味関心、検討、購入へ至るまでのマーケティング領域においては現在急速にTikTok等の媒体も市場で伸びており分析対象は多様。ツールの新規開発自体は2年に1回のペースででき得るとのことで、期待が持てる。

3.新領域の開拓

先から述べているとおり、現在同社が属するのは顧客を購入へ至らせるまでのマーケティングカテゴリーであるが、その先にある、購入以降ロイヤルカスタマーへ至るCRM等領域への進出についても、将来的な可能性としては視野に入れているとしている。しかしながら現状ポジション領域においてシェア拡大余地が多分に残されていることから当面は同分野で事業展開を進める方針としており、同分野でのシェア拡大のため人材、広告宣伝、研究開発各方面へ積極投資を継続、そのためには減益も辞さないとの考えを示している。


出所:同社資料

4.顧客層の開拓

同社の顧客対象は、ウェブ上で集客を行う全ての業種全ての規模のあらゆる企業となる。現状は、顧客に対してマーケティングコンサルを行う広告代理店向けへの提供割合が全体の約40%、事業会社向けが約60%であるが、一定数に限られる広告代理店への提供数は既に上限を迎えつつある状態となり事業会社向け割合が次第に増えてきている段階に入っている。開拓余地がいまだ広大な、売上5億円規模を持つ全国20万社に対する間口を今後より広げていく戦略としており、特にコロナパンデミックを経て今DXマーケティング課題に関しては顕著に相談が増えてきている状況である中、ソリューション、アナリティクス事業共に30%成長を確実に継続していくことを当面の目標に置くとしている。クロスセルに関しては顧客自身のマーケティング習熟度に応じて柔軟に対応。現在はアナリティクスの提供を受ける顧客企業約120社の内およそ20社がソリューションも平行して利用している。下表においてソリューション事業における料金体系には、勉強会開催やCS都度対応などサポート及び保守運用が含まれている。

業績

1.全体

■売上高及び営業利益率推移

出所:同社開示資料を元にリンクスリサーチ作成

2.アナリティクス事業

(1)通期営業利益率推移

アナリティクス事業においては、顧客企業に対するサポート体制強化を目的としたコンサルタント採用に伴う人件費増加による利益率の低下となっている。また、2022年10月期以降はアナリティクス事業において、より一層のコンサルタント人員採用増及びYouTube関連新規企画投資のため、ソリューション事業への注力投資から転換し投資比重を高める方針であることからアナリティクスセグメントにおいて減益を見込むとしており、営業利益率の更なる低下が見込まれている。

■アナリティクス事業 売上及び営業利益率(通期)

出所:同社開示資料を元にリンクスリサーチ作成

(2)四半期営業利益率推移

前述のとおり投資注力対象をソリューション事業からアナリティクス事業へと転換したより、2021年10月期4Qからアナリティクス事業において利益率がやや下がる形となっている。

■アナリティクス事業 売上及び営業利益率(四半期) 

出所:同社開示資料を元にリンクスリサーチ作成

3.ソリューション事業

(1)営業利益率推移

2020年10月期は、同年10月にリリースしたKeywordmap for SNSについて受注前であったものの収益化見込みが確実視されていたため保守運用費用や広告宣伝費、人件費に投資したことでソリューションセグメントの営業利益が赤字で着地。続く2021年10月期はプロダクト販売が予定通り順調に推移し一転黒字の利益率2桁へと回復及び伸長を果たしている。

(2)今後の目標値

SaaSである性質上から売り上げ拡大と共に利益率は高まる見通しとなっているが、一方、新しいツール開発へ向けた研究開発費は促進の方針であることから当面は売上成長率30%に対し、営業利益は20%成長をターゲットに据えるとしている。

■ソリューション事業 売上及び営業利益率(通期)

出所:同社開示資料を元にリンクスリサーチ作成

(3)四半期営業利益率推移

前述のとおり投資注力対象をソリューション事業からアナリティクス事業へと転換したより、2021年10月期4Qからソリューション事業は利益率が回復となった。

(4)KeywordmapとKeywordmap for SNSとの売上割合について

twitterを分析対象とし2020年10月にサービス提供開始したKeywordmap for SNSはおよそ1年半が経過した直近2022年2Q時点において、2016年にリリースしたKeywordmapとの売上割合が8:2まで成長しており、会社側目標として2年後の2024年10月期には7:3との設定としている。

■ソリューション事業 売上及び営業利益率(四半期)

出所:同社開示資料を元にリンクスリサーチ作成

KPI

1.アナリティクス事業

(1)アナリティクスKPIは順調に推移

契約件数及び月額単価いずれも上昇が続いており、12か月以上継続割合については78%と高水準を維持。スイッチングオプション効果その他サービスラインナップも増やしているとのことでこうした各施策が結果を伴い表れている形。

■左:契約件数・単価推移 右:契約期間別顧客数割合(いずれもアナリティクス事業)

出所:同社資料

2.ソリューション事業

(1)ARR推移

Keywordmap(2016年~提供開始)が前期比26%増加、Keywordmap for SNS(2020年10月~提供開始)が165.4%増加と、for SNS の伸長がソリューション事業ARRを牽引している形となっている。

■ARR推移(ソリューション事業)

出所:同社資料

(2)契約件数増に伴いカスタマーサービス強化が課題

2021年10月期1Q以降、CSチーム強化やプロダクトの機能拡充に伴って低下していた解約率であったが、2022年10月期1Q以降よりKeywordmap for SNSの契約件数増加が顕著になるに従い、CSチームの対応キャパシティが追い付けない状況へ陥り解約率が再度上昇へ転じる。対応策として現在、新規採用強化及び他チームからの異動とCSチーム人員充足へ向けて急ピッチで進めており、併せてCS工数削減、品質維持も進めているとしている。

■契約件数推移(ソリューション事業)

出所:同社資料

■解約率(ソリューション事業

出所:同社資料

                                 以上

成長株投資, 銘柄研究所

Posted by usamiseira