276A ククレブ・アドバイザーズ 資本効率低下という社会課題の解決に向き合う アナリストレポート

2025年6月2日

2025年5月25日に個人投資家向けIR説明会 東京勉強会に登壇いただきました。

動画もご覧ください。

 

 

1. 資本効率低下という社会課題の解決に向き合う

 -CRE(企業不動産)の再活用がもたらす企業価値の再生

日本企業における資本効率の低下は深刻な社会的課題である。多くの企業が事業用に膨大な不動産(企業不動産, CRE)を保有しており、その総額は民間法人全体で約524兆円、上場企業(約3,900社)だけでも約128兆円にのぼる。しかしこうした資産は十分に活用されていない場合が多く、企業の資本効率(例えばROAやROE)を押し下げる一因となってきた。事実、上場企業の約88%が自社にCRE戦略(企業不動産の戦略的活用)が必要と感じている。これは裏を返せば、日本経済全体で企業保有資産の有効活用が進んでおらず、資本が滞留している現状を示唆している。
近年、この課題に対する意識が急速に高まっている。背景には、株式市場や規制当局からの資本効率向上への強い要請がある。例えば2023年には東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を各企業に求める異例の要請を公表し、上場企業に対し低い株価やPBR(株価純資産倍率)改善のため資産効率を高めるよう促した。この流れを受け、非中核資産の売却不動産の有効活用に舵を切る企業が増加している。実際、ロジスティード(旧日立物流)やワコール、デンソーといった大手企業が相次ぎ遊休不動産を売却・圧縮する動きを見せており、経営全体で「持たざる経営」や「資産のスリム化」へのシフトが鮮明である。コロナ禍以降は上場企業による不動産売却件数が増加基調にあり、2024年度には166件の不動産売却が開示された(前年から+21件増)。特に工場や倉庫等のインダストリアル資産が全売却件数の25%(42件)を占めており、安定的に高い割合を維持している。これらの動向から、企業は業績悪化時の資金確保策としてだけでなく、平時から戦略的にCREを活用・整理することで財務指標を改善しようとする傾向が明確になっている。
企業不動産の売却動向(上場企業対象、ククレブ総研調べ)を見るとコロナ後に不動産売却件数が増加傾向にあり、特に倉庫や工場などインダストリアル資産が売却物件の約2割強を安定的に占めている。不動産売却は企業の資本効率向上策として定着しつつあることが読み取れる。

このように、日本企業全体で「遊休資産の活用・圧縮による資本効率改善」が強く求められている。ククレブ・アドバイザーズ株式会社(以下、ククレブ)はまさにこの社会的ニーズに応える存在である。膨大だが流動化されていない企業不動産に着目し、それを有効活用することで企業価値を高め、日本経済全体の生産性向上に資するという使命を掲げている。次章では、同社が掲げる「Compact CRE for Re Born」の具体像と、その不動産テックを駆使した課題解決手段について解説する。

2. 「Compact CRE for Re Born」――不動産テックによる課題解決

 -CREニーズの可視化とマッチングを可能にする自社開発システム

同社の社名の由来である「Compact CRE for Re Born(コンパクトCREフォーリボーン)」、ここに宮寺社長の思いが込められている。
”事業を立ち上げた2019年当時、今後労働人口が減ることが見込まれる中、新しいものを作り続けるよりも、今あるストックをどうやって大切にしていくかという時代に入っていくのではないか”
”昔作った建物で良いものもある。そこに手を加えて、新たな産業や新しい企業が活用すればいいのではないか。その手伝いをデジタルを使ってやりたい”
と考えた。
デジタル=不動産テックによって遊休または非効率に使われている企業不動産を最適化(売却・賃貸・再配置等)することで企業を再生・蘇らせるコンセプトである。このコンセプトを実現するために、同社は独自開発した2つのテクノロジー基盤とマッチングの仕組みを駆使している。

・「CCReB AI」(ククレブAI)

一つ目は「CCReB AI」(ククレブAI)と呼ばれるAI搭載の分析エンジンである。これは上場企業を中心に膨大な企業データを自動収集・解析し、潜在的にCREニーズ(不動産の売却・有効活用ニーズ)を抱える企業を洗い出すツールである。具体的には、企業の有価証券報告書やIR資料、コーポレートガバナンス報告書、財務データなど公開情報を機械学習により読み込み、「資産圧縮が必要そうだ」「遊休不動産を抱えていそうだ」といった潜在ニーズをスコアリング表示する。難易度の高いCREマーケットでも膨大な情報を可視化・分析することで、これまで埋もれていた潜在案件を掘り起こせるのが強みである。言わばCRE版SFA(営業支援ツール)として機能し、経験に頼りがちだった企業不動産売買の世界にデータドリブンなアプローチをもたらしている。

・「CCReB CREMa」(ククレブ・クレマ)

二つ目は「CCReB CREMa」(ククレブ・クレマ)と呼ばれるマッチングプラットフォームである。こちらは実際の不動産案件情報を集約し、売り手企業・買い手企業・不動産会社など関係者が登録して利用するオンライン市場だ。不動産業界は情報の非対称性・秘匿性が高く、有望な物件情報ほどオープンに流通しない傾向がある。CREMaはそうした散在する未流通の不動産情報を一箇所に集め、企業不動産マーケットの流動化を促すことを目的としている。特に物流施設や工場、倉庫といったインダストリアル系の事業用不動産に特化している点が特徴で、まさに大手不動産会社が扱わないニッチ領域にフォーカスしたマーケットプレイスである。
CREMa上では売却・賃貸ニーズを持つ企業が物件情報を登録し、一方で購入・借り受けニーズを持つ企業や投資家、仲介会社が登録している。そしてマッチングが成立すると同社が仲介・アドバイスに入る仕組みだ。登録ユーザー数は2023年9月のサービス本格開始から急増し、現在では約416アカウントに上る(一社で複数アカウントを保有する場合があるため企業数ベースでは約1/3となる)。利用形態はフリーミアムモデルで、基本機能を無料で試せる代わりに詳細なマッチ情報の閲覧や優先対応は有料プラン(月額3万円で5アカウントまで)となっている。ユーザーの約8割が無料プランで試し、実際にマッチング成立など成功体験を得た段階で有料転換するケースが多い。無料プランではマッチ相手が見つかった際に受動的に通知が来るだけだが、有料プランではリアルタイムに自分で相手情報を検索できる。このように段階的な課金モデルによってユーザーの裾野を広げつつ収益化している点も巧妙である。

これら2つのテック基盤を駆使し、企業不動産の有効活用をワンストップで支援する。たとえばCREMa上に寄せられた多数の売却ニーズと購入ニーズを日々CCReB AIで分析し、マッチしそうな組み合わせを発掘・提案するといったことが可能だ。実際、同社が手掛けた案件には「遊休地を抱える企業」と「危険物資の保管倉庫を必要とするテナント企業」を結びつけ、一体的にソリューションを提供した例がある(後述)。このケースでは、ククレブが両社のニーズをプロジェクトマネジメントの形で調整し、土地所有企業には遊休地活用による収益機会を、テナント側には希少な危険物倉庫の確保をもたらした。通常、危険物対応の倉庫建設は専門性が高くマッチングが難しいが、不動産テックによるデータ分析とマッチング機能がそれを可能にしたと言える。こうした「テック×不動産実務」の融合こそが、Compact CRE for Re Bornの中核であり、競合他社にはない独自の課題解決手段となっている。

3. ミッション・ビジョンと存在意義

 -不動産業界に新たな選択肢を提示する企業へ

「全ての企業不動産へのソリューションを通じて、日本の経済・産業に貢献する。」 これがククレブ・アドバイザーズの掲げる企業理念であり、存在意義そのものである。単なる不動産ビジネスではなく、企業不動産をテコに日本企業の価値創造を促し、ひいては日本経済の活性化に寄与するという高い志を持っている。この理念は創業以来一貫しており、まさに第1章で述べた社会課題(資本効率の低下)に真正面から取り組む姿勢を示している。
同社がユニークなのは、経営戦略・財務戦略と一体化した企業不動産戦略を重視する点である。「真のCRE戦略とは単に不動産を売買することではなく、その最適な保有・利用方針を経営戦略・財務戦略と合わせて検討し、然るべきタイミングで戦略的に実行すること」であると同社は定義している。この考え方自体が同社の提供価値を端的に物語っている。すなわち、企業の置かれた経営課題(例:事業ポートフォリオ再構築、資金調達ニーズ、業績悪化時の資産圧縮等)に即して不動産ソリューションを提案・実行し、企業価値向上に繋げるというコンサルティング的アプローチである。
2024年1月、新たなブランドメッセージとして「企業価値創造ソリューションカンパニー」というタグラインを策定した。創業5周年の節目に、自社の存在意義を対外的にも明確化し、企業価値創造に資するサービス提供へのコミットメントを再宣言した形だ。また社内では、MISSION・VISION・VALUEとして以下の行動指針を掲げている:

  • MISSION(使命):私たちが提供するソリューションは世の中に貢献できるか、社会的意義のある取り組みか。

  • VISION(将来像):私たちが提供するソリューションに戦略性があるか。(経営課題に本質的に効くか)

  • VALUE(価値):私たちが提供するソリューションに付加価値があるか。(単なる仲介以上の価値創出か)

このように、自社のサービスが本当に社会に価値を生んでいるかを常に問い直す姿勢が組織文化として根付いている。以上のMission・Visionからも明らかなように、単なる不動産仲介業者ではなく「企業価値創造のパートナー」としての存在意義を自負している。その高い志と理念が、個人投資家にとっても共感できる投資テーマ(社会貢献と企業成長の両立)となっている点は見逃せない。

4. 社長・宮寺之裕氏の経歴と構想力が生む、唯一無二の強み

 -J-REITでの投資責任者経験を、CREマーケット攻略へ昇華

創業者であり代表取締役である宮寺之裕氏は、日本のCRE業界に精通したプロフェッショナルである。同氏の経歴を紐解くと、2007年に三菱商事・UBSリアルティ株式会社(現:KJRマネジメント)に入社し、同社が運用するJ-REIT「産業ファンド投資法人(IIF)」にて企業不動産への投資業務に従事してきた。IIFは国内でも早期からインダストリアル不動産(物流施設や工場など)に特化したリートであり、宮寺氏は一般事業法人の持つ不動産への投資・ソリューション提案を多数手掛けてきた。2016年には同ファンドの投資責任者に就任し、様々な企業の経営課題に即したCRE戦略提案をリードする立場となり、企業価値向上に直結するCREソリューションを次々と実現してきた。
宮寺氏の強みは、このようなCREビジネスの現場経験構想力(ビジョン)を兼ね備えている点だ。IIFで培った豊富な知見により、「どの業種の企業がどんな不動産課題を抱えやすいか」「解決策としてどんな手法が有効か」というパターンを蓄積している。それだけでなく、そうした自身の経験知をデジタル化して汎用化しようという発想に至ったところに、宮寺氏の先見性がある。彼は「これまで自分が経験してきたCREソリューション業務をテクノロジーで再現・自動化できるはずだ」という確信のもと、2019年に創業した。この着想は当時の不動産業界では斬新であり、まさにククレブAIやCREMaといった同社独自のプロダクトに結実した。リアルとテックの橋渡しをするビジネスモデルは、宮寺氏の構想力なしには生まれ得なかったものである。
また、宮寺氏の人脈・ネットワークも無視できない強みである。J-REIT運用会社に在籍していた当時から多数の不動産デベロッパー、金融機関、事業会社の財務担当者らと接点を築いており、創業後もそうしたネットワークが案件源泉や信頼関係の構築に寄与している。実際、創業メンバーには前職で共に働いた同僚(小室仁取締役など)も参画しており、小所帯ながら精鋭チームを形成している。「経験知×テクノロジー×人的ネットワーク」——宮寺氏自身が備えるこの三位一体の資産こそ、競争優位の源泉と言える。他社が容易に模倣できない唯一無二の強みであり、個人投資家にとっても同社へ信頼を寄せる大きな根拠となるだろう。

5. 事業の全体像と提供価値の構造
  ストック収益 + 高付加価値サービス

 -CREアドバイザリー/ファンド組成/賃貸/不動産テックの一気通貫モデル

同社は企業不動産(CRE)の価値最大化を支援するCREソリューションビジネスと、事業用不動産情報の流通プラットフォームを提供する不動産テックビジネスの二本柱で事業を展開している(セグメントはCREソリューション事業の単一セグメント)。両事業を組み合わせることで、企業の遊休資産売却やCRE戦略上の課題に対しワンストップでソリューションを提供し、新たな収益機会を創出している。以下では、それぞれの事業領域において「どのような顧客に対し、どのような取引(サービス内容・報酬形態)を行っているか」について改めて整理する。

・CREソリューションビジネス

CREソリューションビジネスでは、企業が保有する不動産に関する戦略策定や流動化の支援を行っている。顧客企業の属性は主に上場企業を中心とする一般事業法人であり、製造業・物流・小売業など業種は多岐にわたる。これら企業は自社工場や遊休資産となった土地・建物などの不動産を抱えており、経営環境や資本政策の変化に応じて資産ポートフォリオの見直しを図っている。近年は特に「資本効率」を重視する経営への転換に伴い、非中核資産(ノンコア資産)の売却や遊休不動産の有効活用によって資金を創出し、本業の成長投資に振り向けるケースが増えている。

こうした企業に対し、CRE領域に関する幅広いサービスメニューを提供している。具体的には以下のとおりである。

  • CREアドバイザリー:企業不動産の有効活用策を提案・助言や同業(不動産事業者)に対するアドバイザリーを行うコンサルティング業務。社内のCRE戦略(売却計画や資産圧縮方針等)の立案支援や、他社物件の取得支援(M&Aにおける不動産デューデリ等)を行い、所定のコンサルティングフィー(固定報酬または成功報酬)を得るモデルである。

  • CREファンド組成:企業が売却を希望する不動産について、当社がSPC(特別目的会社)等を活用したファンドスキームを構築し、投資家から資金を募って当該資産を取得・保有することで流動化を図るサービス。当社はファンドの組成・運用・償還までマネジメントを担い、その過程でアレンジメントフィーや運用報酬といった収益を得る。

  • B/Sを活用した不動産投資・賃貸:当社自らが企業から物件を一旦買い取り、自社バランスシート上で保有・運用することで企業の早期資産売却ニーズに応えるサービス。取得後は当該物件をテナント企業に賃貸し(必要に応じて元のオーナー企業へのセール&リースバック)、賃料収入を得つつ将来的な売却益も狙う。例えば、ある上場製造業ではM&Aで手放した子会社が入居する工場(遊休化したノンコア資産)を当社グループが信託受益権化により買い取り、引き続き旧子会社に賃貸提供した上で最終的にJ-REITへの譲渡を実現した事例がある。このように当社が投資家として橋渡し役(ブリッジ)となることで、企業は速やかな資産売却と資金化が可能となる。

  • 不動産仲介:企業不動産の売買・賃貸借における仲介サービス。当社の独自マッチングシステム(後述)も活用しつつ、売り手企業と買い手(または貸主と借主)とのマッチングを図る。成約に至った際には通常の仲介手数料が収益となるほか、相手側に別の仲介業者がついている場合には情報提供料(システム利用料に相当)を受領する形で収益化するケースもある。社内に専門のブローカーを擁し、自社案件として仲介を完結できる強みも当社の特徴である(※マッチング案件のうち当社が自ら仲介契約まで担うケースは全体の2割弱)。

  • プロジェクトマネジメント:企業が保有継続を決めた不動産の有効活用を支援するサービス。例えば遊休地に新たな物流施設を建設する場合などに、適切なテナント企業の誘致、建物プランの策定、ゼネコン(建設会社)の選定まで含め総合的にサポートするコンサルティング業務である。企業はこのサービスにより不動産価値を高めた上で自社内に留保でき、当社はプロジェクト遂行に伴うフィー収入を得る。

以上のようにCREソリューションビジネスでは、アセットライト型のフィービジネス(アドバイザリー報酬、仲介手数料、PMフィー等)からアセットヘビー型の投資ビジネス(自己勘定での不動産保有による賃料収入・売却益)まで、多様な収益モデルを組み合わせている。総じてフィービジネスは粗利率が高く安定収益源となりやすい一方、自己投資を伴う案件は物件売却時期や利回りにより収益変動が大きい。このバランスを取りながら、顧客企業のCREニーズに応じた柔軟なソリューション提供を実現している。

・不動産テックビジネス

不動産テック事業では、事業用不動産の情報流通を促進するオンラインプラットフォーム(マッチングシステム)の開発・運営を行っている。複数のシステムを提供しており、主要なサービスの一つは 「CCReB CREMa(クレマ)」。物流施設や工場など企業間取引が中心となる不動産に特化したマーケットプレイスである。このプラットフォーム上に売却・賃貸情報や企業の用地ニーズなどを登録すると、非公開情報を維持しつつ全国のユーザー間でマッチングが行われ、条件適合度の高い相手先候補が自動抽出される。従来、地域ごと・仲介会社ごとに断片化していた企業不動産情報を一元化し、デジタルマッチングによって効率的に引き合わせる点が特徴である。

ユーザーの種類も多岐にわたる。売り手・買い手双方の立場の企業が参加しており、具体的には次のような例がある。

  • 不動産会社(デベロッパー、投資ファンド、仲介事業者など):取得希望の物件情報を収集したり、自社の投資案件に適した土地を探すために利用する。また、自社が売却または賃貸に出す物件を掲載し、広く潜在顧客を募る場としても活用する。

  • 事業会社(一般事業法人):本業に直接必要のない遊休不動産を売却したり、逆に工場・物流拠点の新設に適した土地・建物を探す目的で利用する。自社名を伏せた匿名ベースでニーズ情報を出すことで、機密を保ちながら相手探しが可能となっている。

  • 金融機関(地方銀行など):地元企業の資金ニーズに不動産絡みの相談がある場合、当該案件の買い手紹介や物件探索を支援するツールとして導入する例がある。自行の取引先企業(預貸先)のCRE案件情報を登録し、他地域の投資家やデベロッパーとマッチングさせることで、取引先支援と金融機関自身の業務効率化に繋がる。

  • 設計・建設会社:企業の新規施設建設計画に関連して、用地情報やテナント需要情報を得る目的で参加する。例えば「工場移転ニーズ」や「遊休地の有効活用案件」の情報を得ることで、自社の設計・施工受注につながる引き合いを獲得する狙いがある。

このようにプラットフォーム上には「不動産売却情報」「増床ニーズ(拠点拡張)」「遊休資産の活用希望」など、多様なニーズ・物件情報が登録されており、それらを独自のマッチングエンジンで組み合わせてスコアリング表示することで、ユーザーは効率的に相手を見つけ出すことができる。
利用形態(料金プラン)は、現在無料プラン有料サブスクリプションプランが用意されている。2023年9月にマッチングシステムの本格提供(課金プラン開始)を開始して以降、2025年春時点でユーザー登録アカウント数は400超に達し、そのうち有料会員は全体の約2割程度である。無料ユーザーは基本機能を無償で利用でき、物件情報やニーズを登録すると条件に合う相手先が見つかった際にシステムから通知を受け取ることが可能である(受動的な利用形態)。マッチングが成立して実際に取引が成約した場合には、情報提供料(成功報酬)として一定のフィーを支払う仕組みとなっている。一方、有料会員は月額課金によりプラットフォーム上の案件を自由に検索・閲覧でき、マッチした相手に対して自ら直接アプローチ(問い合わせ)することが可能となる(能動的な利用形態)。有料プランの料金は企業向けパッケージとなっており、例えば月額約3万円で5アカウントまで利用可能といった設定である。サブスク収入により安定的な収益基盤を構築しつつ、前述の通り無料ユーザーからの成約時フィーも含めたハイブリッド型の収益モデルとなっている。

・両ビジネスの連携と典型的な案件フロー

上述のCREソリューションビジネスと不動産テックビジネスは、単独で収益を上げるだけでなく相互に有機的に連携している点が同社ビジネスモデルの特徴である。不動産テックビジネスで培ったデータベースや分析システムをCREソリューションビジネスに活用することで、難易度の高い企業不動産マーケットにおいて潜在的な売却・活用ニーズを掘り起こし、効率的に案件化することが可能となっている。
例えば、自社開発した「CCReB AI」というツールでは、上場企業の開示資料や財務データなど膨大な情報をAIで解析し、潜在的にCREニーズ(不動産売却や遊休地活用の必要性など)のある企業を自動抽出することができる。この分析エンジンにより見込み案件となりそうな企業をリストアップし、当社のコンサルタントチーム(CREソリューションビジネス)がアプローチを行う。具体的な案件化に至った際には、該当物件やニーズを先述のCCReB CREMa上に登録することで、全国の投資家・不動産プレイヤーに対して広く情報提供しマッチングを図る。マッチングシステム上で関心を示す買い手候補・借り手候補が見つかった後は、その中の一部については当社が仲介役として交渉支援を行い、条件調整から契約成立までをリードする。場合によっては前述のとおり当社自らが物件を買い取りファンド化するなど複合的なスキームを構築し、最終的な取引成立(エグジット)まで導くことも可能である。このようにデジタル技術と実務支援を組み合わせたハイブリッド型のビジネスモデルによって、従来は埋もれていた地方の遊休不動産や企業のノンコア資産に新たな流動性をもたらし、企業と投資家双方に価値を提供している。
事例:複合ソリューションによるCRE戦略支援の例
ある上場企業では全国に点在する複数の遊休資産(工場物件)の整理が課題となっていた。同社は小型物件の個別売却では買い手探索に難航していたが、当社はこれらをポートフォリオとして一括ファンド化し、ブリッジファンド経由で最終的にJ-REITへの売却を提案した。自社バランスシート投資と外部投資家マネーを組み合わせたスキームにより、同社は非中核資産を短期間で現金化するとともに、施設の賃貸利用も継続可能となるメリットを享受した。当社にとっても仲介手数料に加え、ファンド運営収入や物件保有による賃料収入を得る機会となった。まさに両事業の強みを生かしたソリューション提供と言える。
以上のような取り組みにより、当社は企業のCRE戦略ニーズに包括的に応えつつ、自社の収益源を多角化している。個人投資家から見ると不動産テック事業のサブスクリプション収入は安定的なストック収益に映り、CREソリューション事業は案件単位で大きなフロー収益(成功報酬や売却益等)をもたらす成長ドライバーと位置付けられるだろう。両輪の事業が連動するビジネスモデル全体像を俯瞰することで、当社が今後創出し得る価値と収益機会を包括的に理解できる。例えばマッチングプラットフォームのユーザー基盤拡大に伴い案件情報の集積が進めば、より大型のCRE案件獲得や成約率向上が期待でき、ひいてはファンド組成や自己投資案件の増加による業績押上げ効果も見込まれる。この相乗効果により、当社は「企業不動産にイノベーションを起こす新ビジネスモデル」として成長を加速させていくことが可能である。

6. 高い参入障壁と強固な競争優位性

 -コンパクトCREマーケットに特化した独自の情報基盤と流通チャネル

前述のようなビジネスモデルを構築している同社だが、その背後には高い参入障壁強固な競争優位性が存在する。まず参入障壁の観点では、同社が焦点を当てる「コンパクトCREマーケット」自体が特殊だ。企業不動産マーケット全体では潜在的なストック量が莫大である一方、情報開示性が低く流通量が限られている。つまり豊富な案件予備軍はあるが表面化しづらい領域であり、この分野に新規参入しても案件情報を集めること自体が難しい。同社は創業以来、この情報の非対称なマーケットに特化してビジネスを展開し、独自にデータベースと顧客基盤を築いてきた。蓄積された情報資産とノウハウは模倣困難であり、後発他社が同じ水準に到達するには相当の時間と投資が必要だろう。
また競争環境の観点では、同社の立ち位置はユニークである。同社が扱う案件規模は数億円〜数十億円程度(20億円程度まで)の中規模案件が中心とみられるが、これは大手不動産会社が主戦場とする超大型案件とは棲み分けられている。大手は大型オフィスビルや再開発案件に注力する傾向が強く、地方工場や小規模倉庫の売却といったニッチ案件にはあまり手を伸ばさない。ニッチなインダストリアル資産領域で事業展開する企業は限定的であり、この意味でも競争は緩やかだ。さらに、仮に大手プレイヤーが中小型のCRE市場に関心を示しても、ククレブほどの専門知見や専業体制を持たないため簡単には参入できない。これらの点で独自のポジショニングが競争優位を支えている。
テクノロジー面での優位性も注目ポイント。CRE領域でAIやマッチングプラットフォームを実用化している例は国内で珍しい。同社のプラットフォームには既に多くの企業・投資家が集まり始めており、このネットワーク効果は時間と共に強まると期待される。特に一度マッチング成功を経験した企業はリピーターになる可能性が高く、案件情報も継続的に提供してくれる。こうしたエコシステム型の優位性は、単発の人的ネットワークに頼る競合とは一線を画す。
さらに、収益構造の安定性も競争優位の一つだ。CRE案件の発生は必ずしも景気循環に左右されにくい。むしろ不況時には遊休資産売却ニーズが高まり、好況時には成長投資のための拠点新設(不動産需要)が生まれるなど、景気の波を受けにくいビジネスである。実際、2020年前後のコロナ禍でも企業のCRE戦略ニーズは底堅く、同社は高成長を維持した(次章参照)。また前章で述べたようにストック収入とフロー収入の組み合わせにより利益率も高水準で安定している。これらは投資家にとって安心感に繋がる要素であり、長期的な企業価値創造の土台となっている。
最後に、人的資産も優位性である。同社の少数精鋭のチームはJ-REITやデベロッパー出身者が揃い、不動産金融・開発の専門知識と起業家的マインドを兼ね備える。トップである宮寺氏のカリスマとビジョンの下、社員一丸で目標達成に邁進する企業文化が醸成されている。急成長企業でありながら堅実な案件執行を可能にしているのは、人材と組織力の賜物である。このように、情報・技術・市場ポジション・収益安定性・人材のあらゆる面で強みを発揮しており、総合的な参入障壁を築いていると言えよう。

7. 業績推移と今後の見通し:高い確度での成長見込み

 -成約確度の高い案件パイプラインと、多様な収益源による成長モデル

ククレブ・アドバイザーズは創業以来、高い成長軌道を描いている。2020年8月期の売上高実績は1億12百万円であったが、2024年8月期には12億69百万円に達した。この間わずか4年間で売上規模は約10倍となり、年平均成長率は80%超というハイペースである。営業利益も2020年8月期の47百万円から2024年8月期には4億20百万円と急拡大し、営業利益率も常に30%前後を維持している。この成長力と収益性の両立は特筆すべきで、同社が掲げる「成長性と安定性を兼ね備えた収益構造」を実証するものと言えよう。

直近の業績も好調に進捗している。2025年8月期(今期)について、当初計画では売上高17億92百万円・営業利益5億15百万円を見込んでいたが、新規案件の受注増加が寄与し本年1月に業績予想を上方修正した。修正後の計画では売上高22億円・営業利益6億50百万円となり、前期比でそれぞれ+73.3%、+54.5%という驚異的な増収増益を達成する見込みである。なお上方修正幅も大きく、売上・利益とも当初計画比で+20%以上の上乗せとなった。これほど精度高く業績を伸ばせる背景には、常に一定数の案件パイプラインが見えていることがある。同社経営陣によれば「少なくとも来期(2026年8月期)については既に具体的な案件パイプラインが存在し、かなりの確度で売上計上が見込める」状況とのことで、現時点の積み上がり案件ベースで来期売上高は約33億円程度になる試算だという。仮にこの水準に達すれば今期計画比でも+50%超の成長となり、営業利益も10億円規模(営業利益率30%前提)に達する見込みである。中期経営計画はまだ策定中とのことだが、この勢いが続けば2020年の創業期から見て年率50%以上の高成長を当面維持できる計算になる。

*豊富なパイプライン(2025年8月期 第2四半期資料より)

2025年8月期業績予想(修正後)は売上高は前期12.69億円から今期22億円へ+73.3%の増加、営業利益も4.20億円から6.50億円へ+54.5%と大幅な伸長となる見込み。このように同社は上場後も当初想定を上回るペースで成長を遂げており、高い成長余地を裏付けている。

成長のドライバーとしては、第1章で述べた市場の追い風(資本市場からの資産効率化要請によるCRE売却ニーズ増大)に加え、同社自身の営業体制強化や新規事業の寄与が挙げられる。営業面では、現在3名程度の専任営業人員を今後数年で5名体制に増強する計画があり、案件開拓力の一層の強化が図られている。また不動産テック製品についても、地方銀行との提携を通じてCREMaの導入拡大を進めている。地方銀行は地元企業の遊休資産情報を多数抱えるため、CREMa網への取り込みは案件創出に直結するだろう。さらに新規事業として、企業の遊休地に同社自ら危険物対応型の倉庫を開発・マスターリースするプロジェクトがスタートする。これは2026年8月期からの収益貢献を見込む中期的施策だが、日本で不足する危険物倉庫の供給拡大という社会ニーズにも合致した注目分野である。実際、危険物倉庫の需要は年々高まる一方で賃貸供給は極めて限定的であり、同社がこの分野でパイオニアとなる可能性を秘めている。

上記は新規事業として開発予定の「危険物倉庫」のイメージ図。1棟あたり約1,000㎡規模の専用倉庫で、引火性液体など危険物資を安全に保管できる施設である。半導体・EV製造向け原材料やネット通販に伴う化粧品などの特殊原材料などの需要増を背景に、こうした高機能倉庫ニーズは拡大中。しかし自社保有でない賃貸型の供給は不足しており、ククレブは遊休地を活用したマスターリース事業でこのギャップを埋めようとしている(最短で2027年後半の竣工予定)。同社の成長戦略にはこのような新領域への挑戦も含まれており、中長期的な収益拡大に寄与する見込みである。
前述のように豊富な案件パイプラインと市場環境を踏まえれば継続的な成長が期待できる。さらに収益性の高さから内部留保もしやすく、新規事業投資や株主還元に積極的に振り向けられる。実際、同社は上場後早くも年間20円の配当を計画しており(前期実績17円から増配)、成長と利益還元の両立に意欲的である。

8. 最後に

 -「CRE再生」という社会的意義あるテーマへの共感と投資機会

ククレブ・アドバイザーズは、日本企業の眠れる資産に光を当て、経済全体の活性化につなげようという大きな使命感を持った企業である。単なる不動産テック銘柄ではなく、「社会的意義のあるビジネスモデル」と「卓越した成長力」を兼ね備えた企業。投資家として、自らの投資が社会課題の解決に貢献しつつリターンを生む可能性がある点は魅力的である。同社は今後も高度な専門性とテクノロジーを武器に、未開拓のCREマーケットを切り拓いていくことを期待する。

9. バリュエーション

時価総額 180億円
株価 4,185円(2025年5月27日終値)
会社予想EPS 106.24円
会社予想PER 39.4倍
配当 20円
配当利回り 0.5%

2025年6月2日成長株投資, 銘柄研究所

Posted by ono